農政新時代について

農政については、ご存じのとおり、2年前に既に政策を地域政策と産業政策に明確に分け農政を刷新しました。地域政策のコンセプトは、農家一人ではできないことを国家が代わりにやる、であって、インフラの概念だと思っています。例えば用水路の工事をするとかです。なぜやらなければならないかと言えば、農地がもつ多面的機能の維持し地域を維持する為です。後者の産業政策は、農家が頑張れば収益がでるという当たり前の構造を作るためのものです。少し具体的に言えば、過去の自民も民主も供給サイドしか政策を打っていないかったのを(例えば種々の補助金、土地改良、戸別所得補償)、需要サイドや流通サイド(輸出・マーケティング・流通・販売営業力・6次産業など)もしっかりと光をあて、エコサイクルを作りましょうというもの。総じて方向は絶対に正しい。

そうした上で、TPPがでてきた。TPPは農家にとって短期的にはマイナス。しかしやりようによってはプラスにもできます。そうなるように、まさに農政新時代の到来と言えるような新たな振興策と産業構造の抜本的転換が必要だと感じています。今日はそのことを書いてみたいと思います。

まず、多少余談になりますがTPPについて触れたいと思います。私自身、交渉の結果は意外なものだったと認識しています。例えば農林水産品の関税非撤廃の割合。日本だけ突出していて19%。他の国は、例えば最後まで頑張ったカナダでも5・9%、ペルーは4%、メキシコ3・6%、米国1・2%、残りは1%未満となっています。また、関税の即時撤廃も他国平均は85%であるのに対し、これも日本だけ突出して低く51%。国際的に見れば日本は相当頑張ったと言えます。

しかし交渉を頑張ったことと農業が大丈夫かは別問題です。これについては影響が出ないための当面の振興策と同時に、影響が出ても対処できる振興策枠を用意すべきで、昨年末に第一弾として緊急対策を党として出しました。私自身は今後も香川型農業を念頭に振興策に力を注いで参りたいと思います。これは農地が大切だからです。農地は農家の収入や安心安全な食料の供給という面以外に、大和の心や子供の心を育み、環境対策、地域結束など、非常に多面的側面を持っています。だから絶対に守らなければいけない。

しかし守るだけでは全然だめです。本質的に農家が儲からないといけない。だからと言って決して単純な大規模化とか法人化ということではいけません。また従来と同じことをやっていても茹でガエルになるだけです。まずは見える化。何がどこでどれだけどんな手法でどれだけのコストでどのような流通路を経て消費者に届いているのか、産業構造を俯瞰的に見えるようにし、かつ時間軸で分析する必要があると思っています。

日本の食品市場は80兆円。原材料は生産者が作った10兆円(輸入も数兆円ありますが)。この差の内の10兆円でも生産者側が関与できたら、単純計算で農業収入は2倍になります、とは言いませんが、そうしたことを実現するためには、産業構造を変えなければできない。生産者が原材料を供給だけではなく、生産者が食品産業全般に関与できるような構造にしていかなければなりません。繋ぐにはやはり農協の協力が不可欠です。農協の需要サイドとの関与を強め、農協に儲けて頂き生産者に十分に配当して頂く為に国は何ができるか。そもそも論を考えなければなりません。場合によっては農林中金にお手伝い頂き、農協と、流通やリテールや輸出や海外市場構築などを得意とする企業、つまり食品産業との資本提携戦略も視野に入れておく必要があると思います。

生産者にはこれまで同様美味しい品物を作ることに専念頂くことに大きな変わりは有りません(これは大原則です)。ただ、生産者同士がどうやって協力し、その品物を誰がどのように買い、海外も含めて誰にどのように売るのかは変わる必要があります。大きなチャンスでもあります。他業種との連携による商流開拓や標準化なども進めなければなりません。多面的機能を無視したやり方では地域衰退に直結しますが、そうじゃないバランスの取れた政策を推進しつつ新農政の詰めをやらなければなりません。

輸出も真剣に拡大をしなければなりません。10年くらい前は4000億円くらいだった輸出がここ急激に伸びており7000億円くらいに増えています。目標の1兆円も達成できる勢いです。問題は、輸出したら農家が単純に儲けると言うことにはならないということ。つまり国内と同じ様な構図のままのことを海外市場でもやったらボリュームが増えるだけで同じ結果になるということ。だからバリューチェーンごと海外市場に作らなければならない。もちろんマーケティングが大前提になる。

海外市場開拓の場合、しがらみが無い分だけ国内産業構造の改革より簡単だと言えます。もちろん海外であるための困難(相手国独自の規制やら言葉やしきたり文化の違いなどのコスト)もあります。一方で、輸出量の拡大によって国内供給量が減り価格が上昇するということも一部起きているという報告も聞きます。相当いろんなことを考えながら政策を作り上げる必要があるはずです。

いずれにせよ、既に見えている輸出の障壁(相手国の規制や国内HACCP認定の推進など)の改善を徹底的に進めることは当然です。

良い政策、良いアイディアを出していきたいと思っています。