町の金融と地方創生とお役所

・地方創生は誰がやるのか

結局、地方創生というものは、創生ですから、新しい事をやらなければ成し遂げられないわけで、そのためには、アイディアなりシステムなりの投資をしていかなければいけません。第一の問題は誰がやるのか、ということであって、もちろん国が責任をもってできる環境を整えるということは言うまでもありませんが、国が細部に至るまで地域の実情を把握して、それを纏めて全国一律な施策を打って、全国金太郎飴のように地方が創生発展するなどというのは夢のまた夢です。

では、地方公共団体ががんばらなければならないわけですが、今までのように税金を原資とする公共投資(ハードであろうがソフトであろうが)だけに頼っていたのでは、よいアイディアはそうそう出ないであろう、だったら民間も一緒になって地域の事を考えなければなりません。

国がやってくれるくれない、では全然ダメなのは当然ですが、知事がやってくれるくれない、でも全然だめで、市長がやってくれるくれないでもダメなのです。民間も国も県も市も町も自治会も町民も、全員がやる気にならなければなりません。

・民間の中心は誰かー地域金融

民間側が進んで地域の創生のために立ち上がっている例も少なからずあります。例えば北海道の稚内。もともと漁業が盛んなところですが200カイリ漁業規制で遠洋漁業が大打撃。もう同じ路線は無理だと立ち上がったのが地域の信用金庫の理事長。空港整備から旅館整備まで、できる事は何でもやった。さもありなん、地域経済がなりたたないと、信用金庫もなりたたない。危機感が強い。

(念のたですが、空港や旅館を作ったから創生したということではありません。信金はこのとき、町全体の産業戦略を描いた上で、それに沿ったかたちで、それぞれの事業者が払う事業再生への努力が報われる環境づくりを、”お金だけではない支援”を通じてし続け、それによって町のありとあらゆる産業が息を吹き返し好循環が生まれた、というところが肝です。空港や旅館を支援すれば地方が創生するという、いわゆる旧来の補助金的な発想ではなく、町全体の好循環を生む環境づくりをしたということです。念のため。)

地域金融にはそういう性質があります。ただ、それだけではありません。地域内に取引先がたくさんありますので、地域の経済状況を俯瞰的に見れる。どこにどのように投資すれば、どういうサプライチェーンを通じてどのようにおカネが回るのかを俯瞰的に見れる。しかも地域外との連携ができる組織力と人脈力がある。だから地方創生の主体としては、地方自治体と並んで町の金融は最も有力であったりします。

少し脱線しますが、兼ねてからこの場でご紹介してきました地域経済分析システムであるRESASは、地銀や信金と同様に行政が俯瞰的に地域の経済状況を見れるようにしようという、国が開発し地方公共団体に提供しているシステムですが、なぜ私がその名前すらついていない開発初期段階から応援してきたかというと、そういうシステムがなければ地方自治体は地域経済を俯瞰的に分析することができないからで、もし地方行政が俯瞰的分析をできれば、見えなかったものも見えるようになり、新しい政策(中小企業支援)が立案できるに違いないと思ったからです。

・過去の評価だけでは未来はない

話をもどすと、稚内の信金になぜそんなことが可能だったのかということですが、信用金庫も慈善事業者ではないのでビジネスにならないと融資なんかできない。よくよく考えてみれば、リスクをとったからです。

と、ここまでは普通ですが、どのようにリスクを取ったかが一番重要です。つまり将来価値の評価をどのように行うか、が勝負だと思っています。旅館があって、その旅館の経営状態が悪く財務諸表がボロボロだから銀行は貸さない、では話になりません。過去しか評価していないからこうなる。過去の評価だけで投資をしていても未来はありません。未来の評価、ある種未来の期待感に投資しないければ、未来はありません。未来の期待感は金融が寄り添って初めて光るものだと思います。

銀行マンが、いろんなツールと人脈をもって、中小企業や小規模事業者に寄り添って、その会社のため、ひいては地域全体の将来価値の為に頑張るようにはどうすればよいのか、ということになります。

この部分、すでに国は2年前から大きく舵をきっています。金融業界の所管官庁は金融庁ですが、金融庁と言うと、規制省庁。これだめあれだめという官庁ですが、そういっていては、上に述べたことが成し遂げられないので、規制官庁から育成官庁に大きく舵を切りました。私自身、この変貌ぶりを実感したのが2〜3年前にマイクロファンドの議論をしたときです。以前であれば、どうやって悪さしないように、あるいは市場に悪影響がでないように”規制”するかが視点であったはずの金融庁が、どのように民間活力が生まれるのかという”育成”に力点が移っていたことをはっきり覚えています。

・なにが問題だったのか

結局、過去の金融行政の問題は、20年前の金融危機下で不良債権処理が最大の課題であった時代の哲学をそのまま続けていたことです。もちろん、この間に同趣旨の問題は指摘されておりましたし、改善するために試行錯誤がありました。しかし、地方創生が国家の戦略になった時点で抜本的にその哲学が変わったと言えます。

例えば金融検査マニュアルというのがあります。金融庁が地域金融に課す検査です。もともとの哲学が不良債権処理なので、保守的検査内容になっていたのは当然です。金融業界はこれに通りさえすれば、あとは国債と大手に大規模におカネを投じれば、ビジネスとしてはやっていけてました。ここに、リスクをとる必要もなにもなく、なるべく過去の評価が高い優良企業に融資すればよかったわけです。銀行に目利き能力が失われたと言われるのは、こうした制度的問題があったわけです。これはおかしいということになりました。

地銀や信金の一部には、行員の人事考課につき、ノルマを課すことを廃止したところもあるようです。ノルマというのは、企業側からしてみれば借りたくもないのに借りて欲しいという銀行に付き合うわけで、そういう企業は過去の評価が良いところであるので、再生にはつながらないし新しい企業も生まれにくい。ノルマ評価を廃して、経営困難な会社でも寄り添う姿勢を大切にする方が、当然目利き能力も向上するでしょうし、活力につながる筈です。

結局、そうした本当に頑張る地銀・信金を高く評価する金融行政にすべきであって、実際に今では事業性評価という未来の評価を行うシステムになっていますが、引き続き改善していく努力が必要です。

また、評価だけではありません。信用保証制度というのがありますが、地銀は信用保証協会から保証枠をもらって融資すれば、ほとんどリスクを負う必要がないわけで、不良債権処理時代には資金繰りに困る企業救済のための制度でしたので必須でしたが、現状にマッチしている制度であるとは言えません。今後議論すべき課題の一つとして挙げられています。

今年の年初に日本銀行がマイナス金利を導入しました。国債に頼るところが大きかった地銀信金も、このままではやっていけない。そこで合併し更にボリュームの拡大に乗り出す地銀も現れましたが、本来は、地域の経済を担う中小企業や小規模事業者が、チャレンジをしようと思ったときに寄り添ってくれて、そこで健全にビジネスができる町の金融であるべきです。

先ほどの稚内の例は先端事例&特殊事例であって、同じことを全ての地銀・信金ができるわけではありません。しかしスピリットはこうあるべきであって、なぜそうなってこなかったのかと言えば、金融行政が、現状の変化を直視せず、過去のシステムを20年もひきずったままだったからと言えます。

・金融機関の視点

これまで行政の視点を書きましたが、一方で金融機関サイドからみた直近のビジネス視点も書いておきたいと思います。(この部分は初稿から後日追記したものです。)

地域金融目線で、なぜ昔はリスクを取れていたのか。行政視点ではない単純な理由があります。それは、今の低金利(マイナス)金利時代とは違って、昔は小口融資でも利ざやがあったので、リスクを取ってでも全体のリターンが計算できた、しかし、これだけ利ざやがなければ小口だと土台儲けが計算できない、小口をやる管理費さえ賄えない。つまり、低金利時代、しかもマイナス金利の時代になると、儲けの算段ができないからリスクを取らなくなっただけ、という視点です。つまり、地銀信金にすれば、需要もないのに低金利にすれば小口融資なんてもっとできなくなるじゃないかとなります。

ではなぜマイナス金利になったのかと言えば好景気ではないからです。資金需要がなく、銀行も貸そうにも借りてくれない。なぜ需要がないかと言えば、事業者がチャレンジしなくなったからです。なぜそうなったかと言えばリスクをとれなくなったからです。で、ここまでは行政視点でも金融業界視点でも同じです。問題は、直近のビジネス視点だけで行けば、既述の通り融資リスクはとらない。すると、事業者はチャレンジできなくなる。悪循環です。

既存の金融で資金供給できないということになれば、それ以外で可能性があるのはマイクロファイナンスであって、小口はそちらにシフトしていかざるを得ないのかもしれません。もし仮に、それだけで地域経済が回るようになれば、金利の正常化を通じて、リスクテイクも増えていく。

マイクロファイナンスの分野はそれはそれで力を入れてでも推進すべき手法であって、事実私も応援してきているつもりです。マイクロの利点は、1つのファイナンスの規模が小口なので参加者が気軽に行える。結果的に、財務諸表などの過去の評価だけではなく、期待値という未来の評価によってもファイナンスが行われるからです。

しかし、当たり前ですが知財のアレンジや人物紹介などの周辺支援を金融支援と同時に行う総合支援は難しい。そうした総合支援が事業の創出には必要だと思います。結局、金融界も地域全体の経済を底上げする音頭をこれまで以上にとっていかないといけないのだと思います。

最後に目利き力衰退論について、念のため触れておきたいと思います。昔はリスクテイクできた環境にあったから必然的にリスクをとっていたことは述べました。リスクの取り合戦を同業他社とやっていたということです。これの裏をかえせば、取ったリスクを管理するために、総合支援をしっかり行っていたと言えます。つまり融資した取引先が焦げ付いてほしくないから懸命に寄り添っていた。それが取引先を強くしていた側面もあるし、目利き力を磨いていた側面もあります。今はリスクをとっていないので、総合支援の必要性もなくなってきたので、結局目利き力が弱くなったと言われるのだと思います。

つまり因果の分析をしっかりしないと政策を誤ることになります。

暫くこの分野でいろいろとやってみたいと思っています。