ホルムズ海峡を巡る財務相発言は日本を貶める

ホルムズ海峡(ペルシャ湾)の緊張を巡る一連の我が国政府の対応について、まず事実経緯について簡単に触れておきます。

・イランの核開発疑惑についてアメリカが経済制裁(原油取引)を表明
・イランがホルムズ海峡封鎖を示唆(UAEやクウェート・サウジなどからの原油航路)

・アメリカが日本にイランからの輸入制限を依頼
・財務大臣、ただちに1割の削減を明言
・外務大臣は、対イラン戦略との関係で削減を牽制
・経産大臣も、1割削減が経済界に与える影響を考慮し削減を牽制
・最終的に官邸は調整できず、3大臣「削減の方向で努力」との曖昧な表現に終始

以上が正しいとすればの前提ですが、怒りをもって問題点を指摘しておきます。

先ずはじめに、なぜ安住大臣が官邸や関係閣僚との調整全くせずに、これだけ大きな外交戦略に直結する案件を簡単に安請け合いをしたのか、についてです。

第一に、外交戦略そのものについてです。これが主張の最大のものです。

日本はイランと歴史的に良好な関係を維持してきました。つまり、アメリカとイランの仲をとれる立場にあった。麻生総理の際には、携帯電話で先方外相などと気軽に話せる関係を築いていたはずです。であれば、今その関係を使うべきです。

そもそもこうした制裁行動は国連の決議に基づくべきが本旨です。アメリカの禁輸制裁に同調などせず、我が国は、「イラン核開発には大きな疑念を持っている」「イランは国連決議に基づく行動を期待する」「アメリカの石油輸入削減は国連決議に基づくべきである」とするべきであった。もともと民主党は国連中心主義とおっしゃっていたのではないでしょうか(私は反対ですが)。

アメリカは、もともと国連決議に応じてこなかったイランに業を煮やして種々の制裁を行っています。それに反発してイランが仮にホルムズ海峡の封鎖を強行したら、アメリカは軍事行動も辞さないとしています(空母を1隻追加派遣)。イランからみれば封鎖してしまえば原油の輸出もできなくなり、実際には封鎖はしないのではないか、という見方もありますが、緊張によって原油価格を吊り上げられるという目論みがある。

まさにチキンレース。仲をとるシステムが何か必要な問題です。そして、核開発疑惑に関する国連決議に基づく行動の一つでも譲歩を日本がイランから引き出せれば、緊張はすっと緩和するはずです。原発事故を起こした日本としてはなおさらそうした行動が必要なはずですし、理解されるはず。

第二に、アメリカとの関係が築けていないことをもっと考えるべきです。

イラン制裁は国連決議で議論されていますが、アメリカの独自禁輸制裁はアメリカ国内で暫く議論され議論されてきたもの。アメリカと日本に本質的に強固な関係が樹立されていれば、アメリカは事前にこうした協力をお願いするかもしれないよ〜と日本に持ちかけてくるはずです。ところが、突然財務長官が財務大臣のところにやってきて、やって頂戴よ、の一言。少なくとも1週間前に言って来いと追い返すくらいの胆力がほしかったです。

第三に、産業戦略の問題。

イランからは全原油輸入量の1割弱だそうです。多くはありませんが少なくは無い。今の日本はエネルギー問題に敏感な時期です。少なくとも経産大臣と協議するべきですし、そもそももっと議論が必要もののはずです。

第四に、政治と官僚の関係、民主党的政治主導の問題です。

発表は米財務長官が来日したときに共同記者会見で行われています。であれば日米間の事前の調整は必ずあったはずです。であれば、確実に大臣官房は通っています。普通であれば、秘書官なり大臣官房なりが調整を図るはず。なぜ大臣が勝手にそんな国家戦略に関わる重要なことを勝手にできるのか。役所が全く機能していないのではないか。

相変わらず大臣は権限ばかり振るい役人は責任逃ればかりをし、結果的に大臣が本当に裸の王様になっている状況が相変わらず続いているのではないか?政治(大臣)とは、結局責任は採るから君(官僚)たち仕事をして頂戴、と言うのが理想だと感じていますが、今は、私(大臣)が仕事をするから責任は君(官僚)たちとってね、が多い。それでは、役所は動かないと思っています。

第五に、上記の問題を指摘されたのか、安住氏はどこかの講演で、その理由を語っていますが、その理由に、アメリカの国防授権法(NDAA)を引っ張り出してきています。これは絶対にあとづけの言い訳であって、役所の入れ知恵だと確信しています。

NDAAというのはアメリカの法律です。国防に関して事前に行政に権限を与える法律で毎年何らかのことをやっています。今回は、イランへの経済政策が盛り込まれています。その中で、アメリカ政府は、イランとの取引がある国内外の金融機関との取引停止をアメリカ金融機関に命ずることができる条項がある。

つまり、おっしゃりたかったのは、早めにイラン制裁に協力しておかないと、いつNDAAが発効されて金融危機に巻き込まれるかもしれないということだと思います。

しかし、普通の国というか、普通の人であれば、こういう場合、日本がもしこれこれこういう協力をしたらNDAAの規定から除外してくれますよね、と確認してから、制裁を発表しませんか?というか絶対にアメリカと調整するはずです。その痕跡が全然ない。もう少し真摯に対応して欲しいと思います。