税制改正大綱と政治理念

政府が税制改正大綱を発表しました。民主党政権にとって初めての本格的な税制大綱ですが、結局財源のための税制になっており、平たく言えばとりやすい所からとったなという印象です。税制は、税金をどのくらい取るかという問題ももちろん大きいのですが、政策的にどのような日本にするかもかなり大きい問題です。税制の触り方によって、個人主義にも社会主義にも、競争社会にも平等社会にもなりますから、将来の日本のかたち作りの根幹部分の政策です。ですから、個別の税制について、どのように変えるのか(政策)、もさることながら、どうして変えるのか(理念)も大切になってきます。

例えば給与所得者の控除縮減。高額所得者は従来、所得に比例した額の控除が認められていましたが、今回、上限を定め、また削減しようというものです。国際的に言えば所得税の累進カーブは相当フラット化が進んでいるのですが、その流れに逆行するということは、何かのメッセージがあってしかるべきです。しかし、これが一体、「がんばれば報われる社会」自体の軌道修正なのか、「平等公平に安心して暮らせる社会」を追及しようというものなのか、果ては、消費税が政治的に困難なので、財源として「富めるものに負担をしてもらう」ものなのか、全然分かりません。メッセージが全く掲載されていないからです。

政治はメッセージです。メッセージとは理念です。そして理念を掲げないと、他の政策課題との整合性がつかなくなります。だから全体としてチグハグになってきます。(富めるものに相応の負担をしてもらうのであれば子供手当てには所得制限を加えるべきです)。

森田一先生が、「民主党は右から左までかなり幅広い思想の集団だから、政党として政策綱領をつくろうとしても、まとめられないから綱領がつくれない(だから理念がない)」という趣旨のことをおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思います。

ついでに、法人税です。法人税減税自体については、本質的には5%では国際競争力の回復には足りないのですが、財源の問題もあるので、異論はありません。これは”政治主導”で思い切られたのだと思います。これはいい例だと個人的には思っています。ただ、租税特別措置(業種毎の特別減税ルール)がかなり見直されていることを考えると、「民間企業に頑張ってもらって景気を牽引してもらおう」というものなのか、「企業優遇を見直して国民の生活第一」を目指すのか、理念的には分かりにくい。

環境税も導入されましたが、政策的には全く反対です。景気対策のために法人税減税をやっているのですから今じゃなくていいという理由と、一部に負担を強いることになるからです。第一、環境というと税制として創設しやすくとりやすい。タバコも同じです。基本的に環境問題は、遍く広く負担すべきものだと考えます。そして日本だけでなく、国際的に考えていくべき問題だと思っています。お隣の国でボカボカCO2を出しているのに、なぜ日本の、しかも一部の者だけが負担するのか。まずは気候変動枠組み条約締約国会議(COP)などで十分に議論をした上での導入でなければ論理的におかしくなります(鳩山総理の25%は問題外です)。