【善然庵閑話】80年間大事にしまっておいた一枚の写真

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先日、よく存じ上げている方で、銭湯を経営されている御仁のお宅でご不幸があり、葬儀に参列できなかったため、改めてお悔やみを申し上げにお伺いをしたところ、ひょんなことからご両親の話になり、重い想いの詰まった一枚の古い写真を見せてくれることになりました。その御仁は既に90歳。先日93になる奥様を亡くされた後でした。これほど想いの詰まった写真は見たことがありません。

その一枚の写真によって、私は一気に、部屋ごと80年余前の世界に投げつけられました。右端の学生が御仁であり、真ん中の長兄の出征に際して、長兄の右の父親と下の母親、そして両側の3姉妹と一緒に、高松のご実家で撮った写真とのことでした。

お気づきだと思いますが、80年ということは、シナ事変での出征です。ご自身はその後、陸軍に入隊し善通寺の第11師団に所属。第11師団は全員満州に派遣されたとことでしたが、19年頃に満州駐留の第11師団は3派に分けられ、1つは満州、1つは南方、1つは本土防衛であったそうで、その御仁は本土防衛に当たられることになった。

満州隊はご承知の通り終戦後はシベリア送り、南方隊は直後に輸送船毎撃沈され、御仁は本土防衛隊であったから生き延びることができたのだとしみじみおっしゃる。もし南方であったらなどと今でも思うことがあるのだそうで、生きていることと生かされていることに最大感謝されているように見えました。

ご両親はその間、高松が空襲に遭ったとき、向かい合って話でもしていらしたのであろう、抱き合うようにして亡くなられたのだとか。更に当時は物資不足の時代、棺の調達が間に合わず、ご夫婦で1つの棺に納められたのだとか。御仁はこの棺のエピソードを何度も何度も繰り返され、心からご両親を愛していらっしゃるのだなと思わずにはいれませんでした。

80年間大切に保管をされた貴重な写真。時代に翻弄された人生。そして愛の詰まった人生。そんな話を聞かされて改めて眺めるこの写真に、なんとも奥深いもの感じるのは私だけではないはずです。