新価値基軸による新しい世界秩序の創造について

北朝鮮による水爆実験が行われたという報が飛び込んできました。国連安保理決議を無視した行為に断固として抗議するものです。北朝鮮はこれで孤立化の道をたどることになります。日本として国際社会として対抗措置をとるべきであり、また単独でも更なるしかるべき措置をとるべきです。

■世界で起きていること

米国の相対的プレゼンスが低下している中、中東の混乱が増し、それにより欧州は分裂気味、米ロも対立、アジアで中国は台頭。中ロが共闘姿勢をとれば、世界のパワーバランスは一気に崩れ、混乱に拍車がかかる可能性もあります。そうした多極化した混沌が北朝鮮にこうした行為を許しているのかもしれません。つい先日、サウジがイランに対して国交断絶を宣言する報がありましたが、これもこうした混乱の一部であると見るのが正しいと思います。

全ては米国の行動しない主義が招いていることです。レッドラインを引いておいて、それを超えられても行動しないことが如何に米国のプレゼンスを低下させ世界の混乱を招いているのか。オバマ大統領は驚くことに2013年9月に世界の警察官を辞めた宣言をしています(辞めるにしても宣言しなくてもよかろうに)。

介入を避けることで目前の危機がなくなるのであればそれは理想主義としては正しいのですが、現実は全く逆の方向に流れており、米国のこうした行動しない主義が中東ではシリアの混乱を助長し、さらにウクライナのクリミア紛争を通じたロシアの介入で、更に問題が複雑化し、極めて解決が困難な問題になりつつあります。

かといって、これまでと同じような欧米風の自由と民主主義一辺倒の価値観押し付け外交や地政学的パワーバランスの価値観、軍事力だけのプレゼンスだけでは解決できる問題ではなくなってきています。

■世界が為すべきことは新しい価値に基づく戦略再考だ

北朝鮮については後日改めて書きたいと思いますが、今回はそうした世界全体の平和に向けた価値の創造と戦略立て直しについて書いてみたいと思います。端的に言えば、米国は、世界でのプレゼンスを増すべきだということですが、そうするためには、軍事的プレゼンスも増すべきです。残念ながら北朝鮮やISILなどの輩が跋扈する世界には軍事は欠かせません。日本で治安を守ってくれる警察官が棍棒と拳銃の所持を許されているのも同じです。

しかしながら、先ほど触れたように、それだけでは埒が明きません。自由と民主主義という価値観や地政学的パワーバランスの価値観、軍事力だけのプレゼンスから脱皮し、そうしたものに加え、新しい価値観を背景とした、より現実的な対応をしなければなりません。私は人道という価値基軸を追加して戦略の見直しを図るべきだと考えます。

■現在の中東の最大の対立軸がサウジとイラン

サウジとイランの話から始めたいと思います。これまで不穏当な状況が続いていた両国ですが、とうとう最悪の事態、非常に危険な状態になっています。アラブ諸国連合で外相会議が行われたり、アメリカのケリー国務長官が動いたりなど、関係国も事態収拾に向けて動き始めていますが、まずはこうした関係国には平和的解決に向けた外交努力を続けて頂きたいと強く願うものです。

もともとこの2つの国はペルシャ湾をはさんだ中東の2大国。サウジは世界最大の、そしてイランは4位の産油国です。そして、サウジはスンニ派が、イランはシーア派が多数を占める国です。そしてこの2国は中東の派遣を巡り長く緊張関係にあり、周辺国の内戦で代理戦争を行っている。

例えばイエメン(サウジの南端)。現在のハディ大統領はもともと民主化の波に乗って政権に就いたスンニ派の人ですが、憲法草案の議論のもつれからこれがさらにシーア派の反政府勢力と対立。想像どおり、サウジはハディ大統領の後ろ盾となり、反政府組織はイランが支援している。

シリアも元々は、イランがシーア派のアサド大統領を支援し、サウジがスンニ派を中心とした反体制派を支援していた。そうした代理戦争の間隙を縫って台頭してきたのがISILです。

イラクも、もともとスンニ派のサダム・フセイン政権が多数派のシーア派国民を統治していましたが、フセイン政権後はシーア派が国づくりを主導するようになり、対ISIL作戦では、イランの指揮のもとシーア派民兵が動員されていることが、スンニ派とサウジの反発を招いています。

■ISIL対策を現実路線で徹底的に行うことから始めるべき

そこで話をISILに移します。ISILは、難民発生を武器にEU首脳にプレッシャーをかけ続けており、それがもとでEUは分裂しています。昨年末、EU本部があるブリュッセルを訪問した際、EU本部の知人が、各国国境管理を強化していてEUがEUでなくなりつつある、という趣旨のことを仰っていました。ISILはEUの在り方をも変えようとしています。

であれば、やることは、まずはISILの徹底排除であって、これは空爆だけでは解決しない。ではなぜ米国世論調査で米国民の過半数がテロ対策として対ISIL作戦での地上軍派遣を支持しているのに米国政府にできないかと言えば、2つの理由があります。

第一は、ISILの支配範囲は中東4位の石油産出量を誇るイラクでも北部のみで、石油掘削は南部が中心となっています。だからアメリカは、ISILの南下を防ぐことが最低限の戦略になるため、そのあたりで徹底的に空爆を行っています。つまり最低限やってればいいんじゃないのというのが積極的理由。

第二は、米国のイラク・アフガンでの経験則によるものであって、地上軍派遣後に誰がどのように治安維持を行うかが問題となる。それはとりもなおさず、アサド政権をどうするかにかかっています。これが消極的理由。

後者は少し複雑です。本来、オバマ大統領が当初から明確なプレゼンスを中東に示していればそれほど困難ではなかったはずですが、今となっては、ロシアも介入しているので、単純な話ではなくなってきています。それは、ロシアはイランとともにアサド政権を支援しているからです。

■ロシアとは妥協点を見出すべきだ

ロシアはISIL掃討ができたとしてもアサド政権温存を主張するはずです。もちろんアサド政権は大量殺人の責任を取るべきであるし、自由民主主義価値観から見れば撤退して頂かなければならない存在です。ロシアが地上軍派遣を米国に持ちかけた際にアメリカは即座に否定しているのはそういう理由です。しかし、そうしている間にも難民が大量発生しており、これだけでも人道問題であるのに、この難民が更にEUに入り新たな人道問題を起こしています。

ロシアが目指しているのは、中東の権益拠点であるアサド政権を軸に、アメリカがしなかった中東秩序の構築を、ロシアが変わって実行することによって、世界におけるロシアのプレゼンスの向上を図るというものに見えます。そうなってしまっては中東の世界が塗り替えられ、世界情勢が大きく傾くことになる。

であれば、目の前に人道支援しなければならない人がいるのであれば、という価値軸で、アサド政権にもISIL掃討後にも一翼を担ってもらうような戦後処理が現実的にならざるを得ません。欧米はこうした現実主義に転換して、目前のISIL対策をしなければ、混乱は増すばかりです。

そういった意味で、昨年12月にシリア問題解決のために関係国17か国が集まり、解決に向けた工程表をまとめましたが、私自身は妥協点としては大いに賛同します。何の話かと言えば、アサド政権と反政府勢力が半年以内に移行政府を発足させて来年春までに憲法を制定し選挙によって新政権を樹立するというものです。

誤解があると困るので念のため書き添えておきますが、アサド政権を支援するということは間違いです。人道上の価値によって妥協を探るということです。

■日本は新しい価値創造を世界でリードしていくべきだ

世界は新しい秩序の形成をなしていかなければならないと述べましたが、日本も例外ではありません。ただ、こと軍事に関しては、日本は、やることも、やれることも、やるべきことも、全くありません。昨年通過した限定的集団的自衛権行使を含む平和安全法制をもってしても、日本の存立が脅かされる事態が生じない状態で、いくら演繹的戦略的理由を述べ立てたところで、自衛権を行使できる憲法上および法律上の理由は全く見当たりません(せいぜい掃海活動ですが存立危機事態に該当する掃海活動というものは、否定はしませんが極めて限定的なはずです)。もちろん憲法と法律が許容したところで、日本が軍事介入をすべきでもありません。

では何をすべきなのか。人によっては、こうした混乱や対立はもともとは貧困や飢餓や格差からくるものであって、軍事に軍事対抗では解決しないので、貧困や格差解消のための支援や当該国の自己解決能力支援、いわゆるキャパシティービルディングをやるべきだということをことさら主張する人がいます。もちろんそれはそれで正しいし、日本も既にやっています。

ただ、対立はそうしたことだけでは解決できません。そうしたことに取り組むべきは論を俟ちませんが、国際社会の中で、特に今回、国連安保理非常任理事国になったのだから、イスラムから見ても価値の押し付けとならないような新しい価値創造を日本は主導していくべきです。

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