乙(きのと)巳年の新しい年を迎えました。皆様には昨年も一方ならぬご厚情を賜りましたこと、改めて心から厚く御礼申し上げます。
今年の干支は蛇。干支の中でも蛇ほど話題に事欠かない種は無いように思います。ギリシャ神話では生命力の象徴とされ、今ではWHO(世界保健機関)を含む多くの医療機関等でシンボルとして使われていますし、ツタンカーメンにも神聖性の象徴として蛇型記章が、日本でもヤマタノオロチや龍など畏怖性や豊穣性の象徴として崇められてきました。胴体が長く、長期間捕食を必要とせず、脱皮することから、古来より世界中で、蛇は何かの象徴とされてきました。
私の中で特に印象が残っているのは米海軍です。米海軍は通常、国籍旗として星条旗を使っていますが、過去2回だけ、独立戦争時代の創設期に使用されたガラガラ蛇をモチーフにした「俺を踏みつけるな(DONT TREAD ON ME)」という国籍旗を使っています。1回目は1975年の創設200周年で約1年間。2回目は2002年から同時多発テロを受けた対テロ掃討作戦期で2019年まで使われました。ガラガラ蛇は襲わなければ襲ってこない。踏みつけると大変なことになる。転じて、治安の自由を乱すな、という意味で捉えられ、この国籍旗は愛国心の象徴になっています。
アメリカではトランプ大統領が再選しましたが、日本では考えられない程の分断の危機に晒されています。共和党と民主党の対立は敵対国くらいに考えないといけないのだと、国際政治の専門家に聞いたことがあります。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、確かに日本の政治対立の延長線上にあるような分断ではなく、国民世論を決定的に分断していることは間違いなさそうです。
こうした大国の政治対立は、国際社会の秩序に大きく影響します。昨年までの数年を振り返ると、コロナが収束したかと思えば、ロシアによるウクライナ侵略やイスラエルに対するハマスのテロ攻撃、加えて中国による経済的威圧や軍事活動の活発化など、国際秩序の劣化が深刻化しました。国際秩序の劣化と言っても昔とは様相が相当変わり、伝統的な武力という力による一方的な現状変更の試みもあれば、レアアースなど戦略物資の輸出制限や水産物の輸入制限など、昔であれば安定化に寄与すると言われた経済的な相互依存を武器化する時代となりました。
こうした国際秩序劣化の理由を、アメリカの影響力低下に求める意見もありますが、国際秩序のモデルが相互依存から新しいタイプの勢力均衡に移り、世界は安定のために新たな力を求めるようになったことが本質的な課題です。その力は本来、国連という国際世論による民主主義の力であるべきですが、国連が完全に機能不全に陥っている今だからこそ、国際的視座では比較的安定している日本の力が必要とされるのだという意見を、多くの外国人から聞かされます。
国内にいると日本の政治も大きく混乱しています。しかし、日本の政治が、いつまでも選挙目的の耳障りのいいことだけを並べ立て、人気投票に翻弄されている暇はないはずです。世界は比肩する事のできないほどに疲弊しています。日本は自らの力で物事を俯瞰的に考え、自らの力で答えを出す必要があります。
自らの力で答えを出す。このことを本質的なテーマとして、この一年は取り組んでいきたいと思います。最後になりましたが、今後とも引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げつつ、皆様のご健康とご多幸、加えて益々のご隆盛とご活躍を心からご祈念申し上げ、蛇年の新年のご挨拶に代えさせていただきます。本年も一年間、どうぞよろしくお願いいたします。