新年のご挨拶

 午(ウマ)年の新年を迎えました。謹んでお慶び申し上げます。皆様の御祈願されたことが、駿馬の如く成就される一年になりますよう、心からご祈念申し上げます。

 この日本という国を、20年以上も包んできた閉塞感という名の得体の知れない霧が、少しずつ少しずつ薄らいでいくことの喜びを実感しつつ、その実感を、山積する課題に立ち向かう原動力に変換しながら、微力ながら世のため人のために尽くす喜びを感じております。

 「敢えて遅れたるに非ず、馬進まざればなり」。魯の時代。敗走兵を率いていた孟之反が、自ら進んで馬を遅らせ、最後尾に回って追っ手と一戦交えてそれをかわし、敗走兵を無事に逃した後に、配下の兵に言った言葉です。「いやぁ、別に私がやろうと思ってやったんじゃないんですよ、馬がぜんぜん進まなくてねぇ」。論語に収められている話です。

 論語を生んだ彼の国は、文革を通じて別の国に変り果て、今では我が我がと前に出ることをよしとする。それが良いとか悪いとかは論じませんし、孟子や孔子を語ったところで国が必ずしも良くならないのは、既に文明開化のころに福沢諭吉翁が文明論之概略で仰っていますが、それでも凛とした日本らしい日本でありたいと、馬に乗りて背筋を伸ばしたる騎手を想像したりしています。

 旧聞に属しますがその昔、路上喫煙が話題となり、禁煙を条例化する動きが加速していた時代、マナーからルールへという標語を見たときに、若干背筋に寒気が走ったことを今でも記憶しています。自らを律するもの。それがなければ政治は機能しない。源流は法治。ルールに自らを律するものを求める態度は当然であるとしても、馬進まざればなりと思う謙虚さは、マナーでもあり決して忘れたくない態度です。

 今年一年、改めて騎手の精神で自らを律する大切さを肝に銘じ、汗馬の労を厭わず頑張って参りたいと存じますので、引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう心からお願い申し上げまして、私の新年のご挨拶とさせていただきます。