政府は先月、第5期科学技術基本計画を閣議決定しました。って何のことかと言うと、日本は平成8年から5年ごとに、2〜30年先を睨み、向こう5年の科学技術政策の計画を発表しており、今回は5回目の発表となります。実は党内の所掌調査会で私自身も議論にずっと参加してきたものです。
ただその党内の議論では全く出てこなかった新しい言葉が入っていました。総合科学技術イノベーション会議の誰かが提言したのでしょう。
Society 5.0
とてもいい言葉であると思っています。ご存じのように、ドイツでは数年前から国家的大プロジェクトを実行していますが、その名前が、Industrie4.0。これは日本語では第4次産業革命と訳されます。第1次革命が18世紀後半イギリス発祥のいわゆる機械化による産業革命。第2次産業革命が19世紀後半の電力活用による大量生産。第3次が20世紀後半の電子技術やITによる自動生産。そして第4次産業革命とは、IoTやBigData、AIなど高度な情報技術を駆使した生産革命のことです。
ではSociety5.0とは何かというと、Industrie4.0があくまで高度情報技術による”産業”の革新、それによる労働生産性の向上と国力の向上に注目したものですが、Society5.0は、そうした高度情報技術がもたらす新しい価値を伴った新しい社会、すべてがネットに繋がってAIやBigDataによってインテリジェンスを有している社会で人間が豊かに暮らすという超スマート社会を実現するための手段としてなすべきことの総称です。
なぜ5.0なのかというと、社会は太古から狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会と流れているので、5番目に出現すべき社会という意味が込められている。
今回は細かく書きませんが、この分野の可能性は言わずもがな非常に高い。だからこそ、国家の在り方もそれに合わせて変えていかなければならないと考えています。
ざっくり言えば、規制の在り方のそもそも論です。日本はご存じのとおり、規制が必要だとされる分野は、やれること、できること、を限定列挙するような、ポジティブリストが前提となった構造になっています。例えば自衛隊もです。通常の軍隊は、できないこと、やってはいけないことを限定列挙するネガティブリスト方式をとっていますから、臨機応変に活動でき、問題が生じたら軍法会議にかかります。自衛隊はできること、やれることを細かく書き込んでいます。産業界も同じで、企業も同じようなものです。だから世の中の変化に合わせて法律をどんどん変えていかなければなりませんが、特に情報関係の進歩は日進月歩。ルールが実態に追いつかないので、ビジネスチャンスを逃し、海外に先手をとられてしまいます。
例えばFinTech。メガバンクがFinTechに手を出そうと思っても銀行法で駄目だと書いてある。これは今般法律改正することになりましたが、既にアメリカでは、PayPalやら何やらが世界に進出して、アメリカに相当な富をもたらしています。アメリカはネガティブリスト方式になっています。だから、ビジネスをやり始めるひとは、どんどんやる。
ならば、ポジティブリストからネガティブリストにすればいいのでは、という単純な問題でもありません。ネガティブリストにすると、自由度は広がり迅速に対応できるというメリットがる反面、問題が生じたら裁判するというコストがかかります。アメリカがそうであるように、国家全体で言えば莫大な訴訟コストを払うことに繋がります。法曹人口も今のままでは到底足りません。消費者による訴訟の支援スキームも考えなければならないかもしれません。ポジティブリストの場合は政府が原則を決めているので訴訟にはなりにくい。
産業界がどちらを望むのか、一度そうした議論をしていかなければならないような気がしています。
Society5.0を実行し、日本がイノベーションに最も適した国になるためには(あるいは政府目標のGDP600兆円を実現するためにはとも言えますが)、政府が予算をかければよいと言う単純なものではないことだけは確かです。