新年のお慶びを申し上げます。

酉年の新年を迎えました。謹んで新春のお慶びを申し上げます。旧年中も多くの出会いと気づきの機会を頂きましたこと、ご縁を頂きました全ての皆様にまずは感謝申し上げる次第です。酉という字は、果実が成熟の極みに達した状態を表すそうで、しかも干支では犬猿の間に入っているように、犬猿の仲を仲裁するという言い伝えがあるそうです。今年は、世の中が良い意味で成熟する年とならんことを念じております。

■国内経済を振り返って

昨年年初より日本銀行によるマイナス金利政策の導入から始まり、秋口にはイールドカーブコントロールが導入され、いよいよマクロ金融政策は成熟期と申しますか試練期と申しますか、アベノミクスも含めて新しい段階に入ったと言えます。大手産業にとっては短期金利の低下はプラスに働きますが、産業構造がこのままでよいということではありません。シャープや東芝の例に代表されるように、日本の基幹産業はデータドリブン社会の煽りを大いに受けていると言えます。産業構造の核心の為に、オープンイノベーションを確実に推進するインセンティブ政策を日本は大胆に導入すべきですし、オープンクローズ戦略によって標準化政策もしっかりと行うことで、国際競争力を高めていかなければなりません。さらに、データ社会対応のため、第四次産業革命・Society5.0関連政策もしっかり進め、イノベーションを後押しすることを中心に考えなければなりません。

一方で、この短期金利低下は、地方創生や中小企業政策としてみれば、需要サイドが弱い現状においては、地域金融のスプレッドの低下によって資金供給が産業界に向かいにくい構造を生み出しており、需要サイドの改善を、金融機関による健全な金融仲介機能の強化という視点でも進めなければなりません。金融検査マニュアルが随分変わったのはそのためですし、信用保証制度も今後改善をしていかなければなりません。

ただ、地方銀行や信用金庫がリスクを取らなくなったとか、目利き力が無くなったという指摘には少し慎重な視点が必要であると感じています。金利がある程度の水準にあってスプレッドが十分取れればリスクも取れ、産業界に寄り添う形が出てきて、目利き力が必然的に養われるということも論理としては十分に説得力があるからです。そう考えれば、現状ではいくら産業に寄り添おうと思っても管理費も賄えないという状況になっていることも考え合わせる必要もでてきます。マイクロファイナンスとの整合性も検討する必要があります。

いずれにせよ、知的財産や大学等の研究成果、政府の税制や補助制度、企業の技術力や組織力、そして金融機関の資金、言い換えるならば資金と技と知恵を総合的にコーディネートする人材が必要です。そうした地域の商社機能を各地に設置していくべきだと思いますし、将来的にRESAS(地域経済分析システム)の利活用が進めば、自治体の政策の深みと厚みが更に増すものと期待しています。

■国際経済を振り返って

昨年末のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が新大統領に当選しました。選挙期間中を通じて、保護主義的重商主義的志向を表明しておりましたが、TPPなどは間違いなく離脱を表明することになると思います。今後日本としては、絶対に再交渉などに応じるべきではありません。これは意地ということではなく、イギリスのEU離脱にも見られるような世界の保護貿易主義的傾向に対峙していくのだという強いメッセージを日本としては世界に発信するためです。

ただ、短期的に見ればトランプ氏の公共投資5500億ドルや法人税の35%から15%への減税は、アメリカ国内の景気をてこ入れすることになることは間違いなく、更にFRBの利上げに伴って、日本としては全体的に円安株高のバイアスがかかることは間違いありません。また、アメリカの悲願であった中間層の底上げと低所得者層対策には大きくプラスであるため、政治的安定は確保されると思います。

問題は、2年以上の中長期でみれば、新興国への影響は無視できませんし、また保護貿易体制は世界経済の足を引っ張ることになるので、楽観できるものでは決してないはずです。EUは恐らくそれほど調子が良くなるとも思えず、中国も減速傾向(ニューノーマル)となると、エネルギー需要も低下するでしょうから、資源国減産合意と相まって原油価格は現状維持と見れます。従って物価の安定上昇が達成できるかどうかは、まだまだ先行き不透明です。

■国際政治を振り返って

まずアメリカ新大統領が世界の警察官の役割は担えない、という、オバマ大統領と同主旨の発言をしたことで、中東諸国の安定化に向けた取り組みに水を差した形になったことが挙げられます。もちろん、オバマ大統領が言う意味は、力を背景とした秩序形成に疑問を投げかけるという理想的理念に基づくものですが、トランプ大統領のものは、財政的側面のみから端を発していると思われますので、動向を注意深く見守るべきです。

アメリカの国際政治への関与は続けていただけるよう日本は積極的に働きかけていくべきですが、ブッシュ大統領時代のような力づくのネオコン的ゴリ押しの時代には戻すべきではありません。自由、民主主義、法の支配という価値軸と共に、新しい価値軸を設定し、合意形成を促していくべきです。もちろん昨年2回も国際社会の意思に反して核実験を強行した北朝鮮のような、現行国際秩序に真っ向から挑戦する勢力、そしてISILのような国際テロに対しては、そうした新しい価値軸とともに断固として力で対峙していくべきは論を俟ちません。

中国のように、国際秩序に抗うように独自の戦略を推し進める勢力に対しても、対峙していくべきは対峙し、協調していくべきは協調すべきであると感じています。

■まとめ

いずれにせよ、経済面でも国際政治面でも、日本がトリのようにイヌとサルの仲を取って円滑円満な地域になるイニシアティブをとれるような年になりますよう改めて念じ、私自身も必要な政策を提言して参りたいと存じますので、皆様方には、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げ、皆様にとって、今年一年が素晴らしい年になるよう、心からご祈念申し上げる次第です。