(写真はG20とは関係ありません)
先日、G20財務相・中央銀行総裁会議(以下G20蔵相会議)が行われました。日本が初めて議長国となったのですが、このことは、国際社会にとって極めて意義深かったと思います。なぜならば、後述しますが、世界の中で自由貿易の旗手たりうる国が陰りを見せているため、必然的に日本にお鉢が回ってきている情勢にあったからです。
この会議では、世界経済の動向や構造的問題、デジタル国際課税などについて議論されました。コンセンサス(合意)が得にくい分野もありますが、6月に大阪で行われるG20大阪サミット(以下G20サミット)に向かって日本はしっかりと役割を果たさねばならず、その前哨戦である今回の蔵相会議は大きなマイルストーンになると期待されていました。そこで今日は、世界経済について書いてみたいと思います。
g20.org/jp/
G20大阪サミット(来る6月開催予定)
■世界経済は減速傾向
G20蔵相会議に先立って、IMF(国際金融基金)が世界経済の見通しを発表しました。過去半年で連続3回目も下方修正であって世界経済の減速傾向が改めて鮮明になりました。これは、中国経済の減速、世界的なエネルギー需要の低下と資源国の経済減速、新興国全体の減速、また、ドイツをはじめとしたEU諸国全体の成長鈍化、などが影響しているものと思います。いずれにせよ、G20蔵相会議では世界経済は減速傾向にあるということを現状認識として一致しています。
因みに余談ですが、G20の役割はこうした減速傾向にある世界経済を再び回復基調に戻すために国際協調することにありますが、日本が消費税増税をこの場でコミットしたことについて、評価が分かれるとの論評がでています。つまり、財政赤字の拡大はリスク増大をもたらし世界経済に不確実さをもたらす要素であるはずですが、一方で消費税増税は世界経済の足を引っ張る可能性があり回復基調への国際協調という路線とは逆行するのではないかという主張です。しかしながら、これは消費税増税に伴う財政手当をしっかりしているので、私は指摘は当たらないと認識しています。
本題に戻りますと、世界経済の減速傾向の裏側には、経済グローバル化の負の側面として各国で経済格差が広まり、政治の不安定化を通じて、自国主義や保護貿易主義の傾向が世界に広まってきていること、他方で、経常収支の不均衡の問題が大きな構造的問題として存在します。それらが米中貿易摩擦やブレクジットの問題を引き起こし、世界経済の先行きを不透明にしています。
■経常収支の不均衡は誰が是正すべきなのかー米中貿易摩擦
米中貿易摩擦は典型例ですが、経常収支の不均衡を、自国主義に先鋭化した先進国が関税などで単独で対処しようとしている、という傾向が鮮明に表れているのですが、一体それは正しいのか。正しくないとすれば、経常収支の不均衡を一体誰が是正するべきなのか。これが国際社会の経済面での課題の最大のものであろうと思います。そして自国主義・保護貿易主義は、世界経済の足を引っ張るのみならず、必ずブロック経済化に繋がり、国際政治が先鋭化して、紛争が多発する不安定システムになります。ですから、絶対に避けるべきです。
米中貿易摩擦の構造はどのようなものなのか。中国側からすれば、経済成長に伴って債務を増やして消費や輸入を拡大し、それが世界経済や米国経済に裨益し貢献した筈なのに、なぜ俺らだけが虐められるのか、という見方をしていますし、一方アメリカ側は、不均衡の原因は中国にあるから、関税を上げて対処しようとしています。
現在のトランプ政権のこうした認識は誤りとは言いませんが正しいとも思えません。まず第一に、サプライチェーンがこれほどグローバル化していれば関税を上げたからと言って必ずしも貿易赤字の解消にはダイレクトに効かないはずです。しかも、現在はモノ以外の取引量が多くなっているので、モノの関税を上げ下げしても効果は限定的です。
しかしそれ以上に重要なのは、関税操作では貿易赤字は多少は減らせるかもしれませんが経常収支の不均衡を本質的に是正することにはならないということです。より本質的に不均衡を是正するのであれば、消費を減らすか財政赤字を減らすかのどちらかの選択をすべきです。しかしこれらは政治的には厳しい。一方で、輸出を増やす方法もありますが、失業率が低い米国ではこれも簡単ではない。
であれば、国際社会全体の問題として、経常収支の不均衡を是正する仕組みを整えるべきだということになります。これが今回のG20蔵相会議での日本側の主張の一つになっているのだと思います。そしてもう一つ、先ほど触れた、先進諸国の国内格差と政治不安定をもたらした過度のグローバル化もセットで是正に取り組まねばなりません。つまり現在の自由貿易の基準軸を少し引き戻すということを意味し、過度な格差を生まないようなシステムを模索すべきだということになります。
一方で中国型資本主義の拡大も大きな議論となるはずです。経済発展すると民主化するというのは通説でしたが、現在の世界経済の発展モデルは2極化していて、前述の既存の民主資本主義経済モデルが不均衡と格差にあえぐ中で、中国型覇権政党資本主義経済モデルが成長を遂げています。経済が減速しているといっても引き続き6%以上の成長を続けています。アメリカ経済規模を追い抜くのもそう遠くはないはずです。2040年には人口減少と高齢化のフェースに入ると言われておりますが、それ以降も6%は無理としても緩やかな成長が続くとされています。
これを可能たらしめている理由は様々あると思いますが、次に述べるネットテクノロジーも大きな貢献をしているのだと思います。特に、中国のような覇権政党制であるならば、ネットテクノロジーとの親和性は極めて高い。日本ではシェアエコをやろうとすると、利害調整に極めて膨大な政治コストがかかりますが、中国型は決断があればいい。
世界の経済成長モデルが2極化しているなかで、将来は今よりも大きな摩擦が生まれる可能性は残っています。次世代移動通信規格であるG5でも相当な覇権争いが始まっています。国際社会の秩序を維持するために、あらゆる国際機関を通じて調整の努力を怠ることはできません。AIIBの例をみるまでもなく、不可能ではないと思います。
■デジタルプラットフォーマの国際課税
現在の世界的な株式時価総額ランキングを見ると、GAFA( Googe, Apple, Facebook, Amazon )やBAT( Baidu, Alibaba, Tencent )で埋め尽くされています。世界経済の牽引役は、そうしたデジタルプラットフォームビジネスを行う会社で、これらの会社のサービスのお蔭で、人々の暮らしは確実に豊かになっているのだと思います。
ただ、それらの企業の富が適切に分配されているかというと、どうもそうでもないらしい。とある機関の報告では、一般的なグローバル企業の法人税実効税率は23%程度である一方で、こうしたデジタルプラットフォーマーのそれは、たった9.5%程度しかないとのこと。なぜそうなるのかと言うと、デジタルビジネスのサービスは、その消費地に支店や営業など何も置かなくてもできるため、現在の国際的ルールのもとでは課税されないことになってしまうからです。
こうした企業も含めて富の適切かつ適正な配分を行うべきという観点から、デジタル国際課税という議論が数年前から起こっていて、OECDなどの場で概ね2つの論点を議論しています。1つは、こうした企業を誘致するために法人税を極端に安くするタックスヘブンについて、法人税の見直しを行ってミニマムタックス(国際的な法人税課税最低水準)を定める方法などが議論されています。過度な法人税切り下げ競争を防止するのは極めて有効だと思いますが、どの水準にすべきなのかは難しい問題です。
もう1つは、支店などの恒久施設(PE)を置かないと課税ができない問題について、データ利用量などサービスの利用度合いに応じて課税する方法や、顧客データなどマーケティング無形資産に応じて課税する方法などについて触れています。前者はプラットフォーマを持たない英国などの案で、米中のプラットフォーマを狙い撃ちするようなものです。後者は米国などが提案しているもので、一般企業にも適用されるような一般概念への拡張です。後者の方が理解を得やすいと私は思っています。現在すでにイギリスやフランスで独自のデジタル課税を行っている国もあり、6月のG20で日本は確実に取り纏めを行うべき役割を担っています。
いずれにせよ、日本でも競争政策や個人情報保護の観点で議論が加速しているプラットフォーマーの問題について、一番重要なのは、これらの企業が確実に人々に豊かさを提供しているということであって、それを損なわずに、如何に公平な環境をつくるか、がポイントになります。(これを書いている本日、自民党の会議で、政府に対する一次提言を取りまとめたところです)。