MMTと財政再建

国の財政運営について、従来のマクロ経済学が教えることとは異なる意見が多くでるようになってきました。アメリカではMMT (Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)なる主張が脚光を浴び、日本でも同調する方もいらっしゃいます。端的に言えば、財政赤字は気にしなくてよい、社会課題を解決すべく財政出動を行うべきだ、というものです。何度かこの場で触れていますので、再掲に近いのですが、財政再建が国家の最優先課題になることは現時点ではありませんし、目下の経済、社会保障などの課題を解決することが政治の主要課題です。ただ、財政赤字を放置してもよいか、というと、これは反論せざるを得ません。

政治的ムーブメントを作るという意味では、理解しますが、実際の財政運営は、こうした0か1かを論じれるような単純なものではないはずで、また0と1の間の小数点を論じればよいわけではなく、時間軸上のダイナミクスを考慮しなければならないはずです。

そもそもMMTは理論と称しながら理論にはなっておらず、言うならばMMPhenomena(現代貨幣”現象”)と言うべきものです。現象というのならば一理はあります。例えば従来の経済学が教えるところによれば、財政赤字は金利を上昇させ、民間投資活動を冷え込ませ、不況を招く、というものですが、アメリカでも日本でも、財政赤字規模に比して、インフレ率は低く、金利も低金利、そして財政赤字が民間投資活動を抑制しているとは言えない状況だからです。

財政赤字が及ぼすマクロ指標に対するインパクトが従来の経済学で教える結果とは異なる傾向にあるのは事実で、いわば未知の領域を世界各国は突き進んでいます。ただ、台風が多い月はエアコン稼働率が高いという現象をみて、エアコン使用制限政策とはなりません。現象を切り出しても理論にはならないので、財政運営の基本軸にすることはできません。

従って、財政再建路線の基本設計を行ったうえで、財政ニーズにしっかりと応える運営が必要というだけです。

因みに、財政健全化を至上命題として、あたかも国家最優先課題にすべきだくらいの勢いでお話をされる方がときどきいらっしゃいますが、これも同様に問題です。政府の累積債務は現在1000兆円以上になっています。財務省は、よくたとえ話で、国民一人一人の借金に換算すると1000万円になると説明しますが、これはイメージとは少し違う。

より近いイメージは、仮に外国人と日銀を無視すれば、一家に例えて、お父さん(政府)がお母さん(国民)に1000万円借りている状況です。その家庭(日本)では、外からの借金はないので、本質的に問題はない。あるとすれば3つ。1つは、外から見れば、お父さんの奔放ぶりが外からの信用をなくすことと、2つ目は、お母さんに貯金が1000万円以上なければ、お父さんはそれ以上借りようと思ったら、外から借金しなければいけなくなること。そうなれば、本当の借金です。3つ目は、お母さんが怒って直ぐ返しなさいと言えば、お父さんは毎月のお小遣いを増やしてよと言うはず。結局、お母さんだけが負担を負うことになるわけですが、国の財政の場合、世代を超えた負担の分担を行うのも仕事なので、何世代かに亘って薄く長く負担をお願いする必要があります。

折角なので、もう少し立ち入ります。前述の例は外国人と日銀はないものとしましたが、実際のところ、外国人は1割程度、日銀が5割程度、国民は4割程度、借金を引き受けています。1000万円の借金なら、外からの借金は100万円程度です。ここが多いと本当の借金なので、極めて脆弱な家庭になる筈です。

ざっくりと申し上げましたが、 要はバランスが大切で、財政再建原理主義でも財政出動原理主義でも困るわけで、景気、金利、物価、雇用、社会保障、社会動態変化、対外取引、為替などあらゆる指標と睨めっこしながら、国の財政運営は行わなければなりません。

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