非国家主体と国際法

■非国家主体に対する自衛権行使の正当性について

先日テレビを見ていると、ハマスのイスラエルに対するテロ攻撃について、ハマスが非国家主体であるから国際法は適用されず、従って自衛権行使の正当性はないとする主張を滔々とされる方がいらっしゃったので、念のため非国家主体に対する国際法の適用について書き記しておきたいと思います。なお、恐らくこの方は、イスラエルが仮に大規模地上戦を行ったら甚大な被害が発生するとの人道的懸念から、自衛権自体を否定したいようですが、自衛権自体と自衛権行使は別の話であって混同すべきではなく、訴求すべきは、自衛権を有するとしても、例えば人道を無視した自衛権行使は国際法違反であり正当性は失われる、というところです。

自衛権自体は、国際法上の武力攻撃があると認めうるのか、すなわちその主体が国家若しくは国家に準じる組織による国外からの相当の烈度の攻撃に該当するのかということ、そして自衛権行使については、必要性と均衡性、すなわち武力行使以外に自衛の手段がないのか、武力行使は武力攻撃と均衡がとれているか、という点が主だったポイントだと思います。

国際法の適用は法人格を有する国家であって、非国家主体には直ちに適用されないのは事実です。それはよく知られているように、国連憲章も自衛権の法理も、武力攻撃が可能な主体が国家であることを前提に構成されたものですし、ジュネーブ条約のような戦時国際法も国家同士の戦争を前提としたからで、例えばテロリストによる国家への武力攻撃は想定されていなかったからに他なりません。

しかし、国際法の発展の歴史を踏まえる必要があります。例えば911事件の際、非国家主体と武力攻撃や自衛権の行使について、法学者の間で相当な議論があり、非国家主体による攻撃の本質は犯罪ではあるものの、その規模や様態が国家がなすような軍事攻撃に匹敵するような場合は、それを戦争行為とみなして、自衛権の法理にあてはめることは解釈の幅の問題として全く不可能ではないとするのが主流です。

この考え方は、ニカラグア事件における国際司法裁判所判決でも、示されています。それは、非国家主体が行う間接的武力行使については、伝統的な侵略の定義に規定する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装部隊、集団、不正規兵または傭兵の国による派遣若しくは国の為の派遣又はこのような行為に対する国の実質的関与の場合は、武力攻撃に相当するとされています。なお、この判決ではこの事件のみを拘束するとしていますが、その後の国際法の発展に大きな影響を与えた者であることは間違いありません。

いずれにせよ、そもそもパレスチナのガザ地区は、国家ではないにせよハマスという武装勢力によるガザ地区全域と言う広範な実効支配の事実がある地域ですから、ハマスの攻撃が武力攻撃に該当するかどうかという観点では、国家機関類似の実体によるものであるとして該当しうると言えますし、そもそもハマスに実質的関与をしている国があるのも事実ですから、上記の考え方に沿えば武力行使に相当し、自衛権が否定されるとまでは凡そ言えません。

なお、前稿にも書きましたが、自衛権を仮に行使するとしても、国際ルールを逸脱する行動には反対です。