新年のご挨拶

子年の新しい年を迎えました。謹んで新春のお慶びを申し上げます。皆様方には、公私にわたり一方ならぬご厚情を賜り、心から感謝申し上げる次第です。子年は、新しい運気の始まりにあって、成長に向かって種子が膨らみ始める時期を表し、また、鼠は大黒天の使徒で吉兆を知らせる大変めでたいものとされています。もし幸運の年なのであれば、それだけ余計に運任せにするのでなく、それを掴み取る努力が必要です。そして新鮮で前向きな気持ちで今年をスタートしたいものです。

ネズミで思い出すのはダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」です。脳手術によって知能を回復していく知的障害を持つ主人公チャーリーが、同じ脳手術の動物実験によって心と知能のバランスを崩して寿命を迎える鼠のアルジャーノンを前に、自分の行く末に悩み苦しみながら、アルジャーノンの死を悼み、心配りをする作品です。知性は人間を豊かにする筈なのに、愛を知らず情が欠落したままだと、その知性は独善的な正義感や自尊心となり、孤独や焦燥に至るのだということを主人公は悟ります。

夏目漱石の、情に掉させば流され意地を通せば窮屈だ、という意地と言うのはまさに独善的正義であって社会は許容しません。では独善的ではない正義とは何かが問題になります。例えば社会保障給付を行うにあたって障害者を定義することは社会的な正義なのかという問題があります。定義は区別を生みだすからです。しかし本来、正義を持ち出さずとも、相互理解と信頼という情があれば制度は成立するはずですし、それは人間が不断の努力によって紡いでいくべきものです。

新しい時代を切り拓こうとすると、こうした本質的な議論を避けられません。こういう時代にこそ、現実対処力とともに、そもそも論が必要です。それを通じてこそ、バラバラなそもそも論が集約されて信頼が醸成され、社会に継続力が生まれるのだと思います。今年は、新しい時代を切り拓いていくために、粉骨砕身努力していきたいと思います。

本年が皆様方にとりまして幸多き年になりますようご祈念申し上げます。