新国際通貨制度と日本

国際社会の中で通貨制度の改革が取りざたされています。

日本も昨年、急激な円高に見舞われ、経済的にショックを受けましたが、この国際金融の世界で日本がいまどのような立場に立たされているのか、そして、どのような方向に向うのか、について今回は書いてみたいと思います。

○新しい基準通貨の誕生か?

昨年末、世界銀行のゼーリック総裁が金(gold)の価格を参照値とする新通貨制度を提案しました(このニュースは金本位制への復古を促すものと誤解されて世界を駆け巡りましたが、これは、あっと驚かせて議論を促すという作戦ではなかったのかと思っています)。

リーマンショック以降にできた新しい国際的な枠組みである金融サミット(G20)では、昨年末にも新しい通貨制度が話し合われました。次回の金融サミット(11月)では議長国フランスがどのようなことを提案するかを既に発表しております。

つまり、一言で言えば、リーマンショック以降、各国の財政問題や為替問題、投機的な資金の移動などで大きな被害を各国が受け、不安定な通貨体制のままでいいのか、ドル基軸のままでいいのか、金融取引は野放しでいいのか、もう一度お金というものを真剣に考え直そうよ、という本格的なムーブメントが起きているということです。ブレトンウッズ体制に匹敵する世界的潮流になるかもしれません。

フランスは、初回の金融サミットから、サルコジ大統領が、「ドル基軸の時代は終わった」と宣言し、ここにきて早速、1.通貨体制の改革、2.金融市場の改革、3.商品市場の安定化、などを提唱。今年の11月に行われる予定の金融サミットに向けて、主要国と調整を始めています。主導権争いも見え隠れしますが実に戦略的です。

以前、福田政権のときの洞爺湖サミットで、日本は議長国として環境問題を主題にしましたが、それはそれで結構だとしても、当時の国際情勢としては(原油等乱高下)、金融の規制を挙げるべきだ、と、このメールニュースでも書きました。金融大国でありながらなぜ日本はこうした主体的動きを出せないのでしょうか。自民か民主か、小沢か非小沢かという、ある意味ではかなりどうでもいいことで日本の国益は大きく損なわれているような気がします。

○ドル機軸

そもそもドル機軸のままでいいのかという問題提起ですが、ドル機軸が崩壊すれば間違いなくアメリカ経済は崩壊すると考えられます。世界も混乱する。ドル機軸だからアメリカは双子の赤字でもやっていける。だから新通貨制度としてやるならばIMFのSDRのように、ドルやユール、円や元も入った通貨バスケット方式の新通貨が具体的に考えられます。アメリカは当然これを拒んでいるはずです(アメリカの意向が強く反映されるはずのIMFが先の例のように少し軟化しているのは少し気になるところですが)。

○円高~単独介入と発言力の低下

一方、その日本は世界のなかで、最近はどうみられているのか。実は残念ながら、かなり冷ややかな見方をされています。昨年の急激な円高に対抗すべく、日本は6年ぶりの単独為替介入を行いました。世界は通貨という意味で中国を包囲しようとしている時代です(元レート切上問題)。つまり、みんな、勝手に為替に介入しないようにしようね、という流れになっています。そこで介入を行ったので、日本はかなり批判を浴びました。「国際協定破り」(ウォールストリートジャーナル)、「非常に政治的なパフォーマンス」(フィナンシャルタイムズ)などです。

批判が直ちに妥当だとは思いません。野田財務大臣の「断固として円高には対抗する」という発言は私は好きです。日本を守るという強いメッセージを感じます。国内の政治事情を優先する総理から「やれ」と言われ、野田大臣が世界各国に必死で理解を求めていた形跡が残されています。だから米議会筋は不快感を示しましたが、政府筋はコメントを控えた。

しかし、介入の2ヵ月後のソウルで行われた金融サミットでの主題が「いかに各国が勝手に単独介入をしないか」であったことを考えれば、如何にこの介入が世界から見て「ありえないタイミング」だったかが分かります。また、当時の官房長官が為替相場の防衛ラインを記者会見で「発表」してしまうという、これもありえないことをしてしまったこと(あぁ、そうか日本はそこまでいけるのね、と投機家は見るでしょう)が拍車をかけ、世界から非常に冷ややかな目線を浴びるにいたっています。

以上、長くなりましたが、日本は国際金融の世界ではかなり浮いています。浮いたために発言力がかなり低下しているのも事実のようです。国際社会の中で浮いてもいい場合というのは、浮いても生きていける場合しかないはずです。正直、単独介入がそれほど大きな効果をもたらさないと分かっている時代、今回の介入は対費用効果という意味では大きく考えさせられます(市場は単独介入はないと踏んでいたので、この2兆円の大規模介入で3円近くもどしましたが、結局3週間程度で介入前の水準に戻りました)。

○円高~それではどうすべきだったのか

本来、国内事情と世界の状況を併せて考えれば、総理自らが国際協調介入の方向で積極的に各国に働きかけをするべきでした。猛烈な攻勢を世界にしかけるべきでした。協調介入が功を奏するかどうかは、通貨安競争の時代でしたので微妙ですが、こういう動きが外交です。単に会って握手して笑顔を交わすだけが外交ではありません。海外要人とのパイプがなければ、パイプをもっているベテラン勢を使えばよかった。

外交交渉の条件として、新通貨制度も持ち出せばよかったと思います。同制度に対するアメリカのスタンスをきちんと把握できていれば、協調介入への協力の条件として、次回の金融サミットで明確な賛成はしませんよ、くらいは言えたかもしれません。

さらに、協調介入だけではなく、中国への働きかけも必要だったと思います。もともと中国がユーロから日本の国債へ資金をシフトしたために円高に拍車がかかった。と考えれば協力を要請するべきでした。やはり尖閣が尾を引いているのでしょうか。

国際交渉において、場合によっては(生きていけるなら)最終的に自国優先になっても私はい構わないと思います。が、そのプロセスとして十分に国際社会に訴える努力をしなければならないと思います。今回の場合は協調介入の打診と日本の窮状(日本だけが馬鹿を見ている)をしっかり訴えることです。