価格転嫁と日銀

(中小企業庁HPより)

いわゆる派閥パーティ問題で、国政は当面混乱が続くものと思われます。折に触れて申し上げておりますが、このような政治不信を巻き起こす問題は2度と起こしてはならないのであり、襟を正すなどの精神論ではなくて、2度と起こせない制度を整備していかなければなりません。全部公開で解決する問題では全くなく、むしろ監査人の監査実効性を担保する方向に制度を改正すべきであると考えています。

このことはまた触れたいと思いますが、国政混乱が予想されるなかで大変気になるのが経済の行方です。何度も触れていますが、来年は日本にとって本当に正念場、30年間続いたデフレを脱却できるかどうかの最大のチャンスです。ただ中小企業・小規模事業者の経営者の方々とお話しすると、チャンスであるというのがあまり伝わっていないように感じます。

この国の存亡は価格転嫁にかかっている

一言で言えば、これまでの30年間、日本人は価格や値段というものは上げてはいけない、という神話にとりつかれていたように思います。ただ販売価格を上げなければ絶対にGDPは伸びません。販売価格を上げなければ絶対に賃金は上がりません。

「資材費が上がって、燃油代も上がった。その上、賃上げなんて政府はどうかしている。」と憤る方も未だに多いと思います。転嫁はそもそも無理と思っている場合と、転嫁の発想がそもそもない場合で大半を占めるように思います。

堂々と「我が社は物価高でも価格据え置き」という会社も時々お見受けします。それは、従業員賃金を安く押さえつけているか、もしくは下請けに皺寄せを押し付けているか、のどちらかです。

理由は簡単で、「競合他社に負ける」「取引してくれなくなる」、と考えるからです。しかし、その競合他社も苦しいはずです。

少し考えれば分かることですが、元請けが下請けからの転嫁要望に積極的に応じること、各企業は原材料や人件費を適正に販売価格に転嫁すること、この2つが各業界・各企業で適切に実施されれば、最終消費財の上昇を上回る賃金上昇が達成でき、生産者も消費者も両者満足する社会になるはずです。

なぜ最大のチャンスなのかは単純です。現下のコストプッシュインフレで価格を上げざるを得なくなっている局面にあるからです。価格を上げてはいけないという考えが神話だと実感してもらえるからです。30年間も転嫁したことがなければ、転嫁することすら思いつかないのかもしれません。元請けは転嫁の要望を受け入れる機会もなかったのかもしれません。しかし、確かに転嫁ができる環境にあるし、すべき環境であって、しなければならない環境でもあります。

価格転嫁促進に関する取組

前置きが長くなりました。長らく党中小企業政策調査会にて転嫁促進を中小企業庁や公正取引委員会、内閣官房などと議論してきました。基本的には、賃上げ促進税制とともに、独禁法や下請け法に基づく調査、公表、指導を実施していますが、今般、労務費に関する価格交渉の環境整備を行うため、その行動指針が示されました。適切な転嫁に応じない元請けがあれば、独禁法に違反する可能性があるということを周知徹底することも狙いです。

現在の転嫁率は、原材料価格8割、燃油等5割、労務費3割。10割転嫁を目指しています。

価格転嫁と日銀

価格転嫁が社会をよくする話を書きましたが、前提はあります。供給に対して需要が十分にあること、労働需要が十分にあることです。現在、デフレギャップが改善されてきたといいますが、需要が多いわけではなく供給が不足しているからであるように思います。従って、需要喚起も重要ですが、供給側の政策を打ち出すべき時期です。実際、補正予算では、供給サイドの政策が多くなりました。一方で、労働市場はそもそも人口減少によって人手不足なので、有効求人倍数も十分に高い。

ここで少し気になっているのが金融政策です。そもそも物価が上昇しているのは欧米との金利差による為替変動が主要因ですが、日銀は為替も睨みながら市場への悪影響を考慮してイールドカーブコントロール政策を徐々に縮減しつつあるように見えます。一方で、アメリカはインフレ鈍化が続いていることから来年早々にも利下げするとの観測が広がっています。そのことから、為替も徐々に正常化しているものと思います。

先ほどの転嫁を促進する上で、最も重要なのが労働市場をタイトにしておくこと。人口減少局面とは言え、金融緩和は当面続けなければ賃上げ環境にとってマイナスになるはずです。難しいかじ取りが求め続けられている日銀ですが、何とか踏ん張っていただければと思っています。