
米価の爆上がりを何とかしてほしい、という声に対して、政府が出した答えが、備蓄米の放出でした。効果は今のところ見えていません。高騰が続く米価。今日はその米価について、見聞きしたことをお伝えしたいと思います。
■米価高騰
店頭で品薄になっている主食のコメ。値段は5kgで約4千円。少し前なら2千円強なので2倍です。家計には大打撃。この高騰は、直近の物価上昇とは全くことなるメカニズムで生じています。
報道もされていますので深入りはしませんが、まさに米騒動です。当初は一部の流通経路に支障が生じて一部の地域で店頭から消えたため、買い占めや買いだめが起きて市場が混乱し、全国的に品薄になって価格が高騰したものです。全国生産量は例年並み弱とのこと。生産量はほぼ同じなのに店頭にならばないから、「消えたコメ」と報道されることになりました。その量は約20万トン。全体の生産量が700万トン程度なので市場に影響を与える量です。
■本当に投機目的なのか
流通経路において、通常のルートではない卸業者が、農家から直接高い値段で買い付けて高値で売り抜ける手法がまかり通っているのではないか、と指摘されています。見たわけではないので不明ですが、少なくとも地元の農協には全く集荷されていませんでした。地元の農家さんにも聞いても、業者が買い付けに来たとの話が後を絶ちません。
ただ、全てが投機目的とは思えません。現在、農協の集荷シェアは5割程度と言われていますが、農協というある程度統計が取れる組織とは異なる卸ルートに新規参入が増えたため、流通経路が見えなくなっているように見えます。こうした新規参入を含む卸ルートは効率が悪く、目詰まりを起こしやすいはずです。
すなわち多様な流通ルートが自然とできあがり、複雑なルートになるので流通コストが上昇している、ということなのだと理解しています。投機というと誰かが貯めこんでいるように聞こえますが、サプライチェーンが無駄に長くなっている、という状況に見えます。
■コメの生産コスト
ほとんどの消費者は、農家がどの程度の労働力でどの程度の収益を得ているのか把握していません。大体において、「1反あたりどのくらいの量のコメがとれて」「どの程度の収入になっているのか」を全く気にすることもないでしょう。マスコミ報道でも、コメが高いことしか報道しませんから、国民が農家の現状を把握できるはずがありません。
農家は1反あたり7~8俵生産します。
店頭価格が5kg4千円と書きましたが、農家売り上げ(相対取引価格)は2千円程度です。1俵(60kg)に換算しますと、店頭価格は4万8千円、相対取引価格が2万4千円です。(なお、実勢価格はさらに上昇中です。また玄米を精米すると9割程度になります。)
すなわち農家さんは1反300坪でようやく20万円弱。2丁6千坪でようやく日本人平均年収に近くなります。それでも、生産コストとして「種苗、飼料、人件費、機械償却、乾燥等燃油」などが必要になります。米価が上がる前は1反10万円。1万2千坪つくってようやく平均年収です。これは資本家による大規模農地ならまだしも普通に考えたらとても過酷な労働です。
そもそも消費者が思うほど農家の現状は芳しくなく、コメが高いから安くせよ、というのは確かに消費者なら誰しもが思うことですが、例えば子育てしながら農業をしている方にしてみれば、とても残酷な言葉でもあるのです。
次に長期の推移を見てみたいと思います。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/attach/pdf/aitaikakaku-386.pdf
実は相対取引価格は倍になったとはいえ、その前の30年前に戻ったとも言えます。
■流通コストと流通見える化は必須
少なくとも不思議なのは、相対取引価格と店頭価格のギャップです。このギャップは流通コストですが、例えば少し前なら相対1万2千円→店頭2万4千円だったのが、現在は相対2万4千円→店頭4万8千円です。何かおかしいと思いませんか。流通コストも倍になっている。
そもそも米価上昇は、コメ市場の需給逼迫で発生しているものですが、なぜ流通コストが倍にならなければいけないのか。流通コストが商品と同額という商品は他の業界にはないと思います。アマゾンが聞いたらびっくりでしょう。物流コストや人件費コストの上昇も考えられますが、2倍は暴利と言えるでしょう。これでは農家は浮かばれません。ここに問題があるように思います。
私の勝手な想像ですが、先ほども触れましたように卸流通部門への新規参入も含めてサプライチェーンが長く広く薄く非効率になった結果とも言えます。少なくともこの流通を合理化した上で透明化しなければ、こうした問題はことあるごとに発生すると思います。
■コメの適正価格は
茶碗1杯6~70円と言われています。少し前は3~40円と言われました。消費者にとって適正価格ではなくなっているのだとしたら、もはや生産者は生産維持が困難となり、離農が続く結果、海外からコメを輸入せざるを得ないことになります。食糧安全保障とは全く正反対の方向となります。
昨年から農林省は、「合理的費用を考慮した価格形成について」と題して調査を開始しました。根拠法は「食料農業農村基本法」で、そこには「食料の合理的な価格の形成については、需給事情及び品質評価が適切に反映されつつ、食料の持続的な供給が行われるよう、農業者、食品産業の事業者、消費者その他の食料システム(食料の生産から消費に至る各段階の関係者が有機的に連携することにより、全体として機能を発揮する一連の活動の総体をいう。以下同じ。)の関係者によりその持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない。」とあります。
適正な価格形成や合理的産業サプライチェーンになっているかどうかしっかりと評価していきたいと思います。