
民間主催の国際プログラムは何本かあるのですが、今年は日米の「富士山会合」に参加させていただきました。「富士山会合」は、日本経済研究センターと日本国際問題研究所が平成26年度から始めた「日米知的交流・共同研究プログラム」です。
今年の訪米の大きな焦点は、今年中を目途に予定されている国家安全保障関連戦略3文書の改訂にあたり、日米同盟の平仄を合わせることです。具体的には、米国を代表するシンクタンクである、CSISやBrookings、Asia Groupやハドソンに加えて、最近話題のISWに赴き、著名な有識者と意見交換を通じた認識の共有を行いました。また、政府については国防総省ではエルドリッジ・コルビー国防次官、キャサリン・サットン次官補(サイバー担当)、国務省ではアリソン・フッカー国務次官、NSCのアンディ・ベーカー安全保障担当次席大統領補佐官との会談。その他、スタートアップも含めて産業界の現状認識も伺いました。
内容は、経済安全保障を含む安全保障戦略に関することで、地域的にはイラン、台湾、中国、ウクライナ、ロシア、欧州に関する課題とともに、現代戦の状況共有、特にドローンと調達に関する課題が議題となりました。
(抑止力の信頼性に関する認識)
専門家の間では共有されていますが、経済の武器化とサプライチェーンの脆弱化、加えて技術力の進展に伴って、ここ数年で随分と安全保障の様相が変わり、抑止力の信頼性をどのように担保するかが、各国最大の関心ごととなっています。
すなわち、ハイエンド(高性能)なアセット(装備品)を保有していたとしても、必ずしもそれが抑止力の信頼性を担保することにはならず、それらとともに、現場に合わせてアジャイル(俊敏)に改良される大量かつ低廉のアセットを、AI駆動のネットワークでつないで指揮統制し、宇宙・サイバー・電磁波、さらには経済的威圧やSNSを含めた認知領域などでの活動を巧妙に組み合わせた非常に複雑な戦い方になっています。加えて、アセット製造に不可欠な物資や部品などの採掘や生産などを特定国に依存してきたため、継戦能力自体が抑止力の信頼性を直接左右する時代にもなっています。
従って抑止力の信頼性を高めるためには、こうした新しい戦い方に対する対処力を持たなければなりません。また、そもそもこれだけ国際秩序が劣化している根本的な原因が、国連やWTOといった従来秩序を維持してきた国際機関が機能しなくなっているということなのであって、他の主要国が対処に乗り出せないのだとすれば、日本こそが主導的に立ち向かわなければなりません。
(日本の現状の取り組み)
現行の安保関係三文書でも必要な改革は進行しています。民間に政府機密のアクセス権を付与できるセキュリティークリアランス法、激化するサイバー攻撃の情報を収集し能動的に対応するためのサイバー対処能力強化法、スタンドオフ能力の強化、防衛装備品移転の運用指針の改定などに加えて、経済安全保障上のサプライチェーン強化、重要インフラ安定供給確保、安全保障貿易管理の強化、国内投資審査強化などです。加えて直近では、アセアン諸国は世界の重要物品の供給拠点ですが、ホルムズ海峡封鎖によって原油調達難に陥っているため、重要物品のサプライチェーン安定化のための支援枠組みである、パワーアジアもあります。
(日本の今後の方向性)
ロシアと北朝鮮の連携強化、空母配備増強(太平洋視野)を含めた中国の軍事活動活発化、米軍の中東やウクライナへの分散とアジア希薄化など、大変厳しい環境に置かれているなかで、日本独自のインテリジェンス能力の確保とともに、上で示したような新しい戦い方と継戦能力の確保、経済的威圧への対応と社会全体のレジリエンスの確保などによる抑止力の信頼性の向上が主要な方向性になることを共有しました。
(日本からのメッセージ)
民間も含めた参加者から、概ね以下のメッセージを、国際社会に共有できたのではないかと思います。
- 日本の台湾政策に一切の変化はなく、高市総理の発言は単に野党の執拗な質問に対する答弁が切り取られただけで、中国側が意図的に過剰に反応しているに過ぎない。
- 米中首脳会談が迫っているが、台湾海峡を巡るこれまでの地政学的政策が揺らぐことになれば、日米同盟に重大なインパクトが生じる。
- 有事の際、武器弾薬だけではなく医薬品や重要鉱物のサプライチェーンなど経済安全保障の確保が極めて重要で、同志国で進める必要がある。
- エネルギー確保の安定化は必須である。
(最後に)
米国側が何に言及したのかは詳らかにはできませんが、国内的には物価上昇による政治状況(アフォーダビリティ)の変化と中間選挙の行方、国際的にはイラン戦争と欧州離反という背景のなか、少なくとも新しい国際秩序形成に向けた動きは感じられませんでした。また、米国が苛まれている生産力については、日本の生産力に対する期待を感じました。いずれにせよ、今回の訪問は大変貴重な情報に接することができました。政府安保関係三文書の改訂に向けて、我々自民党としても考えを今月中には打ち込んで参りたいと思います。


