パックスアメリカーナ

パックスアメリカーナ。久しく使い古された言葉ですが、現状の一極集中の国際政治はまさにパックスアメリカーナと言ってもいいと思っています。ただ、覇権国には覇権国としてのコストが必要で、それがいつまでも続くのかという疑問に最近接するようになりました。アメリカ凋落論です。

確かに現在、アメリカの議会は少し混乱しているように見えます。米議会人に接しても、大統領に対する不信が多々聞かれます。もちろん大統領を賛美する議会人などはあまりいないと思いますが、それでも方向性がいまいち見えにくい。外交政策は特にしかりです。

もともと民主党は反戦リベラルのハト派、共和党は強硬なタカ派というイメージがありましたが(と言ってもこれはベトナム戦争前後からですが)、最近これが捩れているように見えます。

捩れというのは、簡単に言えば、共和党が国民世論的に内向きになり、民主党系が政権運営上外向きになっている。共和党がなぜ内向きになっているかと言えば、国民自身が内向きの傾向にあることがあげられます。例えばアメリカ人の38%が国際問題に関与すべきでないと考えているという調査があり、これは戦後もっとも高い数字だそうです。こうした国民の支持を背景に茶会運動というリバタリアンが共和党の中で幅を利かせ、真っ当な外向政策の党内議論ができていないように見えます。一方で民主党は、外交政策上積極政策に出ています。が、これも、例えばシリア問題や日中韓問題などで必ずしも奏功はしていません。

そして、アメリカ人自身が、アメリカは世界の警察官であるべきかについて自ら疑問を持ち始めていることに、政治が明確な指針を打ち出せていない。例えば大統領が強い意志と戦略をもっていたら、方向性も多少は見えてくると思いますが、大統領自身も内向きになっているように見える。

では、専門家の戦略はどうかといえば、これまた割れている。国際問題に、積極関与せよとか、一部限定関与せよとか、撤退せよとか・・・。私自身は、他国のことをとやかく言う資格はありませんが、アメリカは国際問題に積極関与し続けるべきだと考えています。そしてその能力も保持している。問題は意志。

そもそもこうした茶会運動が台頭してきたのは、経済の不信であり、オバマケアであり、特に失業率です。アメリカ政治は日本にいると想像できないほど失業率との相関がかなり高い。アメリカ国民としては、おそらく、自国とほとんど関係ないような海外の問題に手を出すほど余裕は無い、と考えてもおかしくありません。そもそもアメリカは現在、50カ国以上の国に安全保障の傘を提供していますが、確かにあまり関係ないような国も含まれています。

しかし、国際秩序というのは強者がいないと崩れるものです。確かに冷戦期の二強時代より、サミュエルハンチントンが指摘したように紛争は2倍ほど多くなっているようですが、それでもパックスロマーナが成り立ったように、それが唯一無二の最高の政策ではないにせよ、現在の最善のシステムだからです。

そして、これからのアメリカの国力は、シェルガス革命やRMAやらを考えれば、当面の間は高い能力を保有し続けると考えるのが妥当です。中国の台頭を指摘する人もいますが、中国には、アメリカの民主主義と自由みたいな、他国と共有しようとするイデオロギーもその対象国も、この国際社会の中には見当たりません。

問題は、アメリカの覇権国維持コストを現状のパラダイムの中で保有し続ける意志がアメリカにあるかどうかです。そして日本としては、こうしたことに思いをはせ、外交戦略をしっかりと練っておくことです。