現行の国際金融秩序は完全無比なものかというと、必ずしもそうではない。だからこそ、安定した秩序にするために努力を重ねる必要があるのであって、例えばリーマンショックが起きたらそれを教訓としてやれることをやるべきだとは思います。これは行き過ぎた新自由主義を世界が反省しなければならないということだと思います。
バーゼル規制委員会の議論もその方向でなされているのですが、出発点として、今一度原点に立ち返ってみる必要があると思っています。それは、規制の強化がかえって不安定さを助長することになってはいないか、また、経済的悪影響を及ぼす遠因になっていなか、という視点です。さらに言えば、国ごとに環境が違うものを一律の規制にすることによって、個別の国が割に合わなくなる可能性を政治も関心をもっておかないといけないという視点です。
つまり、リーマンなどの金融危機が起こらないための大きな流れでの規制は必要ですが、国に産業が興るためにはリスクマネーの供給は必須であって、そうしたローカルな資金の移動に影響を及ぼすような規制であってはならないはずです。
バーゼル規制の柱は3つから成り立っており、第1は、有名な自己資本比率規制によるリスク管理。第2は、銀行の自己管理と各国の規制監督省庁に委ねる方法によるリスク管理。第3は、情報開示の徹底によって市場の自浄作用を求めるリスク管理です。
現在議論中のバーゼル3では、リーマンショックを受けて、再証券化商品など高度に複雑化した金融商品が絡む信用リスクをどのように評価管理するのか、例えばこれまでのように外部格付けで評価していいのか、という問題や、金利上昇などの市場リスクをどのように評価するのか、などが主要な関心事になっています。その他にも多くの論点がありますが、一言で言えば、リスク評価の精緻化を行おうとするもので、2013年から2019年にかけて段階的実施がうたわれています。
例えば日経新聞が定期的に報じていますが、自己資本規制で国債のリスクも評価対象にするから大変だ、というのがありますが、それは上記の一環の話です。つまり、リスク評価対象が増えるということは、貸出を減らして自己資本を積み増すか、国債を含むリスク資産を売却して分母を減らすかしなければならない。売却が進めば金利は上がるので大変だというわけです。
こうした報道は実際は当たらずとも遠からずではあります。国債は信用リスクと市場リスクの両方にかかってますが、前者については全くあわてる必要もなく、外貨建ての国債でもない限りデフォルトの可能性は低く、信用リスクに積み増す必要はありません。実際に2柱の範疇で取り扱われています。一方、市場リスクの方は、まさに議論ど真ん中。9月11日までにパブコメをまとめ来年には最終化される見通しです。
具体的には、金利リスクを1柱の範疇で機械的に評価して資本の積み増しを求める案と、2柱の範疇で当該国の当局が銀行を監督するやり方が議論されています。欧州勢は1柱案に固執していますが、これはギリシャなどを抱えるから、日米は2柱案を支持していますが、これは国債保有比率が欧州勢に比べ高いからです。これだけ国によって違うのであれば、1柱案で提案のあった単純な評価方法では十把一絡げに扱うのは無理だし、それを単純に受け入れることはできません。
一方で、信用リスクの評価方法の変更検討についても注意深く見守って行く必要があります。前述したように、これまでの信用リスク評価は専ら外部格付け機関によっていました。確かにそれだけでいいのかというのは大いに疑問がありますが、健全な与信先への貸付に負の影響がでるようなことは避けなければなりません。
例えば、法人向け債権は従来外部格付けを参照しリスクウェイトを20%〜150%、無格付けは100%に設定していました。中小企業など小口与信先は一律75%です。協議中の内容は、法人は売上高とレバレッジの水準を参照してリスクウェイトを60〜130%(債務超過は300%)。中小企業などリテール向けは旧来と変わらず75%とされています。中小企業の定義と為替の関係が気になるところです。
これだけではなく、先立つ記事に書いたように、中露の動向など国際金融体制の大きな流れも考えあわせて、変なことにならないように注意深く見守って行こうと思います。