心の何かを刺激する作品

音楽を聴いて、止め処も無く涙が出てくる、という経験をしたことがあります。約10年前のとある日。フジコ・ヘミングの軌跡を辿ったNHKドキュメンタリーを見たときです。

もともとリストやショパンの曲は好きでしたが、フジコ・ヘミングは1999年のブレークまで知りませんでした。その日、会社から帰宅し何気なくテレビをつけてみたものです。ラ・カンパネラ。そのときまでは知らない人であり、有名かどうかも知らない人、しかもたまたま見たテレビにでていたもので、それをたまたま聴いて涙する。普通はありえません。

鐘の音をモチーフにしたリストの曲で、恐らく皆様も一度は必ず聞いたことがある有名な曲です。私もそれこそなんぼでも聞いたことがある。ところがその日は違いました。止め処も無く理由も無く涙がでるんです。これが感動なんだと思いました。

もちろんフジコ・ヘミングの、苦労を背負って生きてきた人間がもつ独特の雰囲気。全てが哲学的な意味合いを含んでいるように聞こえるぶっきらぼうな発言。これらの複合的な結果がラ・カンパネラの鐘の音にのって聴き手の耳に入ってきたときに、脳の中の感動という妙なスイッチを押すのだと今では理解しています。

以降、絵を見るにせよ陶芸を見るにせよ曲を聴くにせよ、全然分からなくても一つだけ自分の中の何かを刺激するお気に入りを探すようにしています。

昨年末、多度津出身の陶芸家である黌農美重子先生が一水会陶芸部公募展で最高賞の一水会賞を受賞し、先日受賞式典が行われました。作品を生で拝見させていただきました。震災からの復興の願いを託したとのこと。そんな言葉を拝聴したからかもしれませんが、妙に心の中の何かを刺激する作品でした。