最低賃金について

最低賃金が議論になっています。上げるべきではない、とはいいませんが、極端に上げるのは愚の骨頂であって、上げたとしても経済の実態に合わせることが前提ではないかと思います。つまり時間軸の設計の問題です。なぜか。

労働市場がこれほどタイトなのに賃金上昇がまだまだ弱いのが日本経済の根本問題の一つであることは間違いありません。なので、賃金上昇にかける思いは政治家として当然のことです。ただ、社会主義国でもあるまいし、賃金を国家が決めることはできません。例外が、最低賃金です。昨年くらいから、最低賃金くらいは、無理やりでも上げるべきではないか、との、韓国文寅在政権のごとく主張する方が多い。ただ、分からんでもない。

最低賃金はガンガン上げるべきだと主張される方の主要な視点は、生産性の向上。中小企業小規模事業者(以下SME)の中には経営に行き詰まり倒産を余儀なくされる会社もでてくる可能性はあるけど、生産性が低いSMEが市場から撤退することによって生産性の高いところのみが生き残り、全体の生産性が上がるのだ、というもの。その他、実質賃金の上昇とそれに伴う消費増を通じた景気好循環という視点や、低所得者救済・社会格差是正という視点などもあります。

例えばオピニオンリーダのアトキンソン氏は東洋経済紙面で、低すぎる最低賃金が日本の諸悪の根源だとして、国際比較すれば2020年の適切な最低賃金は1313円だと主張しています。論旨を読むと、日本の本質的な問題は生産性の低さであって、最低賃金と生産性には強い相関があるのだから、最低賃金を上げて生産性をあげるべきだ、というもの。

しかし、相関があると言っても、本質的には生産性が上がるから賃金が上がって政府が最低賃金を上げるのであって、生産性を上げることを目的に最低賃金を上げる政策をとった国はないはずで実績もないはずです。最低賃金を通じたSMEの構造改革は理解しますが、極端な最低賃金上げは荒療治であって現時点では政治として結果に責任を持てない政策と言わざるを得ません。低生産性企業廃業促進法みたいになりますよね。本質的に資本主義民主主義国家の政策ではない。

さらに言えば、こうした極端な荒療治が成功するのは、市場に十分なプレーヤーがいることが条件です。寡占状態に近ければ、廃業によって市場が消えることにつながります。地域が機能しなくなる。最低賃金に直接かかわる業種はサービス業、例えば卸売・飲食・宿泊などです。最低賃金を極端に上げると、ご近所のスーパが廃業するかもしれない。他にスーパはない。地域の機能が失われる。雇用が失われ、世帯収入が減る。卸売などサプライチェーンが完全に劣化します。その結果、賃金水準が下がる可能性さえある。もちろん、それほど単純なものではありませんが、構造的には寡占状態の市場ではそういうことが起こりうるということは指摘しておきたいと思います。

もちろん、時間軸で経済成長+アルファ程度の穏当な最低賃金政策は可能だと思います。先に、政府の財政政策についての指摘を書かせて頂きましたが、これも同様で、先鋭的な原理主義が全てをダメにするのだと思います。合理的かつ予見可能な政策を大胆に断行していくことが求められるのだと思います。