いわゆる2000万円問題について

いわゆる2000万円について今日は触れたいと思います。

本題に入る前に、明確なのが、年金制度は破たんもしないし受け取れなくなることもない、ということです。そもそも社会保障と税については、過去の民主党政権下での与野党合意で決まっています。制度の全貌は後程述べますが、野党がいたずらに国民の不安を煽るのは、本当に謎で、自分らの時に基本設計したんじゃないですか、と問いたくなる。いくら選挙が近いからといって、塩野七生さんではありませんが、国民の魂を悪魔に売って(不安を煽る)、自らが天国に行こう(選挙)とする行為にしか思えません。

残念なことに、再度、年金不安論が沸き起こっています。(1)本当に2000万円も貯めとかなきゃだめなの?(2)やっぱり時々話題になるくらいだから年金制度って成り立たないんじゃないの?(3)中身はさておき、選挙前だからって報告書(※)の受け取り拒否はおかしくない?というもの。こうした疑問も含めて年金問題について触れたいと思います。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190522/01.pdf

(A)まず私が思うのは、今回のことで、年金制度ってどういうものなのか、ちゃんと理解してみる良い機会だ、ということです。マスコミでは、中身を分かっていないコメンテータが”もう受け取れないってことですよ”などと平気で言っているのを聞きます。そうした政治色の強いコメントではなく、自ら調べて理解してほしいと思っています。まず第一歩は、誕生月に皆様の手元に届く年金定期便をじっくり眺めることだと思います。これ、結構分かり難かったのですが、小泉厚労部会長によって分かりやすいものに変わっています。年金制度の全体像は、後程も少し触れますが、厚労省のページを紹介しておきます。

http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/verification/index.html

(B)次に思うのが、老後に備えて2000万円貯めてよ、と言われても、それは無理だよ、と言う人が多いと思いますが、この金融庁の報告書は不安を煽りすぎていて無理があるということ(正確に言うと金融庁が民間に諮問した報告書)。

さもありなん、この報告書は、資産形成を促す目的なのですから、そもそも不安を煽る必要があるという性格のものです。年金だけでは十分余裕をもった生活にならないから、資産形成してくださいね、という金融庁らしい報告書です。年金制度の検証が目的であれば(例えば厚労省)、財政的に安定はしてますよ、30年くらいかけてゆっくりと徐々に減額されますが、それでも現役世代の給与の5割はありますよ(今は6割)、となったでしょう。

そういう意味では、冒頭の(3)については、ちゃんとこの両者を分かりやすく書くように再諮問するのが正解だったと思っています。

問題となった報告書を見て見ましょう。なんと、モデルになっている世帯は、既に2484万円の貯蓄がある65歳と60歳の無職夫婦で、その後30年間、豪遊はできないけど趣味に娯楽に旅行に新しい挑戦をして過ごす予定の、毎月の支出が26万円、年金受給額21万円、の世帯なのです。そして受給額と支出の差額が5万円だから、30年つづくと2000万円必要だと煽る。更に介護やリフォームはこの支出に入っていないと煽る。

そもそもこの2484万円という貯蓄は高齢夫婦無職世帯の平均準貯蓄額なのですが、この平均にどれほどの意味があるのかは不明です。更に、26万円という支出は2484万円の貯蓄があるからできる支出のはずです。

資産形成を促す目的で2000万円いるぞと不安を煽り、世論がその方向で議論をしてくれればと思ったのでしょう。しかし実際は、年金制度そのものに疑問の目が向けられてしまった、というお粗末な話になっています。まぁ、厚労省の人は困惑しているのかもしれません。政治サイドはもっと困惑しています。

そもそも公的年金制度で十分な娯楽やリフォームを全部賄えというのは土台無理な話です。現役世代からお金を吸い上げてご年配層が十分に娯楽を楽しめてリフォーム費用も賄うべきだと本気で思ってる国民がいるとは到底思えません。

しかも、構造的には現在1800兆円ある国民金融資産の6割以上を65歳以上が保有しているのです(一人ひとりがじゃないですよ)。更に言えば、現役世代は車や家の負債があるので、ネットで言えば、9割以上を65歳以上が保有しているという試算もあるくらいです。

もちろん、かと言って、年金制度というのは、生きていくぎりぎりの保障をしたものではなく、ささやかだけど多少のゆとりある生活ができるレベルです。だから、現在の制度を全力で維持し、財政上できるのであれば拡充していくべきなのです。生きていくぎりぎりレベルを保障しているのは生活保護です。ちなみに、介護は介護保険制度で年金制度とは別枠です(介護保険制度の話はまた別の機会に触れたいと思っています)。

もうお分かりだと思いますが、野党が年金制度は問題じゃないかと煽っている謎さかげん。いやいや、そもそも年金財政の基本制度設計は、冒頭触れたように与野党合意(民主政権時)で確立したものでしょう。

更に謎なのが、最低保障年金と称して月7万円を給付する案を提案しているもの。農業の個別所得補償もそうですが(前回の記事をご参照ください)、耳障りはいい。でも財政的にできないことは自分らで分かったから、与野党合意したんでしょう。それなのに、また持ち出すって、どれだけ昭和の政治を続けてるんだ、という話です。もう令和にしましょう。

断言しますが、現状の制度のままであれば、30年たってもですが、自分が納付した保険料の倍は確実にもらえるということ、現役時代の給料の半分以上はもらえること、破たんすることないということ、納付する保険料は多少の調整はあるものの原則上がることはないということです。

是非、国民の皆様には、選択してほしいと思います。昔、民主党が公約に掲げたけど現実できないと分かって断念した案と、その後にその民主党が主導して基本設計した与野党合意案に基づく現行制度と。