豊かさとは〜例えば古民家再生

日本がこれまで求めてきた豊かさの概念を、多少でも軌道修正する時期に差し掛かっているのではないかと思っています。豊かさは、もちろん経済的側面が基本軸になりますが、GDPなどに代表されるフローの経済のみを追求するのではなく、地方に眠る伝統や文化も含めたストック価値を見つめなおし、それをフロー経済に価値転換しつつ、ストック価値を高めていく循環も必要です。特に、そのストック価値の向上が、社会的課題の解決に繋がる場合に、社会の豊かさは極大化されるのだと思います。

古民家はその典型例です。その再生と利活用によって、多くの社会的課題の解決が可能になります。空き家問題、環境問題、森林環境維持、観光を含めた交流人口や地方移住者の増加、雇用創出や職人技術継承などが直接的な例ですが、日本人の生きる価値を構造的に豊かにする力も持っているはずです。例えば日本の近代住宅は寿命が短く、政府が採ってきた経済対策としての新築誘導政策も相俟って、マクロで見れば日本人の大半は住宅ローンの為に働いている様な状況が続いていて、若者の人生設計に多大な負担を強いていますが、古民家再生による長寿命化で、より豊かな生活を送れるはずです。

そうした中で、例えば古民家再生協会など民間の力で古民家再生や利活用のムーブメントが生まれているのみならず、人材育成や再生支援などの具体的な環境も整いつつあり、また、フロー価値への転換手段として、古民家ツーリズムなどの新しい流れも生み出されています。後段は特に重要です。古民家の店舗や宿泊施設というだけではなく、うどん作りや農業などの体験型という付加価値もついた宿泊施設とするなど、地域特有の産物とのコラボレーションと体験型などの付加価値により、地域全体が活性化する構造も生まれています。

成功事例を見ると、地域の関係者の理解が得られているかが重要だということに気づきます。場合によっては、地域の関係者自らが事業に共同出資して責任を分担し、全員が事業に積極的に関与しています。そうしたモデルは強い推進力を保っていますし、逆に言えば、それを可能にしているのは、事業運営の透明性とガバナンスの確保です。もちろん、運営する者の人的資質や人脈も重要ですが、最近では、現役時代に社会の第一線で活躍していたような元気で優秀なアクティブシニアや若者が、社会に貢献したいとの思いから社会的事業家として活動するケースが多くなりました。非常に頼もしい存在です。政治や行政はそうした活動に対して、補助金だけではない側方支援ツールを確立すべきです。

地域にとって誰かがやってくれる古民家再生ではなく、地域自らが積極的に取り組める環境を創っていくことこそが、重要なのだと思います。

以上は、古民家再生を中心に触れましたが、他の価値創造にも当てはまることだと思います。こうした分野を少しでも増やせられるように、これからも積極的に取り組んで行きたいと思います。

※本文は、古民家再生協会「ジャパトラ」に寄稿した文章「地域に新しい価値を創造する古民家」を加筆訂正して掲載しております。