にわかに注目を集めるCDS

先に資金決済法案の衆院通過をご報告致しましたが、審議を行った財務金融委員会では、野党側からCDSと呼ばれる金融派生商品の言及が繰り返しあり、俄かに話題になりました。そこで今回はこのCDSについて触れておきたいと思います。端的に言えば、我が国は莫大な国債発行残高を抱えているわりにはCDSで見ると信用力はまだありそうだが、本当なのかという論点です。

というのも、選挙が近くなると各党から金出せ槍出せ目玉出せ的に財政出動を求める声が高くなりますが、CDSはそうした議論の過程ででてくるものです。すなわち国債の信用力はまだあるのだから、国債発行で財政を賄うべきとの論です。

まずCDSの本題に入る前に、私の違和感を共有しておきたいと思います。それは国会で声高に財政出動を求める声は、ほとんどが選挙対策だからなのか需要サイドへの手当です。もちろん家計部門に直接効果のある物価高対応は必要で、マクロで見た時も需要面の手当は一定妥当なので、全面否定つもりは毛頭ありませんが、日本は本質的には人不足や投資不足で生産力や供給力が絶対的に低下している中ですので、そうした供給制約下にある場合、財政の需要サイドへの手当は、消費が拡大し景気浮揚効果はあるとしても、インフレが加速すること、加えて消費されるべき消費財は供給制約下では国内で供給できないため、輸入が増加し富が海外に流出すること、となり、日本は今後ますます価値を生まない国になってしまわないか、すなわち未来永劫稼げない日本になりはしないか、ということです。

気合を入れて取り組むべきは、そうした供給力や生産力を財政を積極的に投じて民間投資も促すことで強化することだと思います。つまり、国債発行するか否かの前に、財政を正しい方向に投じる議論が決定的に欠けているように思います。短期的な人気取り政策は厳に慎むべきだと感じます。

■CDS「で」見るべきは当然だが正しくはCDS「も」見るべき

では本題です。CDSは政策判断の指標となりうるのか、なります、というのが答えです。ただ、「CDSで」と「CDSも」は決定的に異なり、CDSだけで政策判断は決してできないように思います。

CDSは30年ほど前にロンドンで開発された債務不履行リスクヘッジのための金融派生商品で、平たく言えば倒産リスク保険です。リーマンショックや欧州危機など金融リスクが高まるとにわかに注目される市場ですが、衆議院の財務金融委員会で俄かに話題になったのは、リスクが高まったからではなく、リスクが小さいのではないかと注目されました。

当然、各国の国債にもCDSが取引されています。ネットでググると以下のようなページがありました。これを見ると、日本のCDSは極めて低く、世界でもドイツに次ぐ2番目。確かに日本国債の信用度は抜群に高い。

https://jp.investing.com/rates-bonds/world-cds

いずれにせよCDSは市場が国債をどのように見ているかを測れる重要な指標であることは間違いありません。しかしあくまでリスクヘッジ市場であって1指標にすぎません。そもそも当該市場の取引の薄さが問題です。取引額は指標の安定性と信頼性に繋がりますから重要ですが、1日平均1~2件の取引しかなく、総額も5千万ドル程度です。決定的に少ない。

考えてみれば日本国債はこれまでほとんどが日本人自身によって引き受けられていましたので、日本国債CDS市場にそれだけの需要と魅力がなかったということなのだと思います。リスクが本当に高まった時に相当の取引量がでてくれば信頼性の高い指標になるはずです。

例えばここ最近は急激に市場が動き出し、CDSだけを見るとリスクが高まったように見えます(以下の日経の解説が分かりやすいと思います)。しかし本当に信用リスクがどの程度なのかは、現時点ではこうした取引額の薄い指標だけで判断するよりも、総合的に判断するべきものなはずです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB095560Z00C25A4000000/

■日銀のテーパリング

現時点で私が注目しているのが日銀のテーパリング。少し遅くするべきではないかと思っています。というのも、日銀は保有する500兆円を超える国債を、今後毎年徐々に、例えば数兆円から何十兆円の規模で、市場に出していくと予想されていますが、引き受け手がどれほどいるのか。先日NHKで、投資家を一軒一軒訪れて国債を営業する財務省職員の涙ぐましい姿がドキュメンタリーで放送されていましたが、これまで国債が日本人によって引き受けられていたものが、仮に国内引き受け手の不足で、外国人投資家の引き受けが多くならざるを得ないのだとすると、これまでの国債リスクの質は大きく変わります。そうしたときにこそCDSは本格的に動くはずです。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-21/SWKDY6T0G1KW00

■財政は大丈夫とか大丈夫じゃないとかではない

一方でドーマー条件という理屈も当該委員会で話題になりました。これは私も基本軸としている考え方ですが、前提条件を正確にとらえておく必要があり、絶対視は慎むべきではないかと思います。ドーマー条件とは、名目金利より名目成長率が上回れば債務不履行リスクは回避できるというものです。ただ、交易条件の変化に伴うコストプッシュインフレ要因が強ければ、名目GDPは伸びるけれども、金利上昇は随分と遅れるはずなので、財政はコストプッシュが続く限り安定傾向にあるということになってしまいます。また、そもそもドーマー条件は、引き受け手が無尽蔵にいることが前提となっていますが、先ほども少し触れたように現時点では引き受け手の問題がありますから、これも総合的に考えるべきではないかと考えます。