
(インテリジェンス機能の必要性)
トランプ政権がイスラエルと共にイランを攻撃しました。現行の国家安保戦略は、その冒頭で、国際ルールを無視して経済の武器化で勢力伸長を図る権威主義国家を念頭に、相互依存のみによってでえは秩序形成が図れないことが明らかになった、と宣言し、外交力をはじめとしたDIMET全領域の能力強化を謳っていますが、今回のこの攻撃は、そうしたルールを守らない国に対抗するためにルールを守っていたのでは平和が保てない時代になったのか、とも評せる衝撃的な攻撃でした。
この攻撃について、日本政府に国際法的解釈を求める方々がいます。重要な視点ではありますが、まるで荒波に放り投げられたときに海洋条約を説法されているような気がします。そうした方向よりも、新たな秩序のプラットフォームを模索すること、そして既存の状況で如何に生き延びれるかを考えること、の方が遥かに建設的に見えます。そして、法解釈をするにしても、新秩序を形成するにしても、対処するにしても、明らかなことは、日本に情報力が決定的に足りていないことです。
インテリジェンスに関する過去数十年の政治的動きについては、最後に触れたいと思いますが、日本もインテリジェンスについて全く無頓着であったわけではありません。それは、何を意思決定するにしても、見えていないものを合理的に判断することはできないからです。
少なくとも直近では、私が本部長を務めている経済安全保障本部で、事務局長を務めていた時代から、経済インテリジェンスの強化のための提言を纏めるなど、政府の具体的な取り組みを引き出してきましたし、更には水面下で国家安保戦略に従ってインテリジェンス機能自体の強化も検討していました。
インテリジェンス能力の抜本強化を図る強い意志を持った高市政権及び自民維新連立政権の誕生の時期が、まさに変化を求められる今の国際政治状況の時代であることは、意味深いと感じます。
(まずは推進体制の整備)
国家インテリジェンス体制の整備には少なくとも3段階のステップが必要であるとの認識を党内には示しています。第一段階では司令塔機能、第二段階では対外情報収集機能とカウンターインテリジェンス機能、第三段階ではその他の機能整備です。
目的は、国家の重大な国政に係る情報の収集及び分析、並びにカウンターインテリジェンスと認識しています。前者の主たる手段は、関係省庁及び新設の対外情報収集ですが、既存のサイバーオペレーションも加わります。またカウンターインテリジェンスは、既存の機能に加えて新設の外国干渉防止です。これら以外のものも含めて、段階的に整備したいと考えています。
今回の提言は、第一段階の整備を目的としたもので、既に内容は報道されていますが、国家安保会議と並びの国家情報会議の設置およびその事務局である国家情報局を設置することを求めています。また企画立案及び総合調整の機能を持たせることで権限の強化を求めています。
司令塔の当初の運用目的も示しています。国家情報会議には、政治サイドの意識醸成、国家情報戦略の策定、防諜プロトコルの見直し、国家情報局には、幹部人事の在り方、インテルサイクルのプロトコル確立、機微情報システム確立、分析能力の強化、組織的人材育成です。
この中でキーメッセージとなるのは分析能力の強化です。今回の司令塔は、主に推進体制の整備に力点がありますが、将来的に情報収集機能が実効的に稼働した段階では、司令塔の機能は分析機能に力点を置くことになります。その際はガバナンスの在り方が本質的な課題になると認識しています。
加えて2段階目の大まかな方向感を示しています。1つは対外情報収集能力についてで、シギント・ヒューミント・オシント・民主的監視について触れています。もう1つはカウンターインテリジェンスについてで、外国干渉防止の法的措置や更なる措置についてです。
いずれにせよ、夏を目処に政府には有識者会議を設置することを求めており、そのスタート時点で党としても、少し詳細な概略方針を示す提言を再度提出することとしております。
国民の皆様には、ぜひ、国家インテリジェンス機能の必要性を共有頂ければと切に願っています。
(インテリジェンスに関する過去の政治的動き)
情報軽視は日本のお家芸、と言われることが多いのですが、実は戦前戦中の日本は今よりはるかに情報収集分析に重きを置いていました。当時の問題はむしろ、形勢が劣勢になってから、指導者層にとって極めて不都合な情報ばかりになり、それを指導者層が直視せずに精神論で埋めていったことです。
戦後の日本は、戦前のくびきから逃れられず、国家による情報収集と軍国主義がセットで語られることが多いまま、情報収集が否定的に捉えられる傾向が強かったのだと思います。それこそ、細々と粛々と実施していたのが戦後から平成までのインテリジェンスでした。このことは、情報力がそれほど必要ではなかった時代背景とも密接に関係しています。
大きなターニングポイントは4つ。最初のものは2006年の自民党のいわゆる町村提言です。冷戦終結とともに国際秩序が新たな時代に入り、湾岸戦争後の2001年には米国同時多発テロ、そしてそれに端を発したイラク戦争など、テロの国際化の時代になると、情報ニーズが劇的に高まりました。イラクでの邦人人質事件や上海領事館員事件などがセンセーショナルに報じられ、国民の情報に対する意識も高まっていました。そうした背景で、町村信孝代議士を先頭に情報機能の抜本強化に関する提言が取りまとめられれ、その翌年から情報機能が改善していきました。
2つ目は第二次安倍政権です。国家が保有する機密情報の保全制度が導入され(特定秘密保護法)、国家安全保障政策の司令塔である国家安全保障会議が設置され、内閣情報調査室にはカウンターインテリジェンス機能が、また外務省には対外情報収集機能が新設されるなど、情報力に再度スポットがあたります。しかしながら、十分な機能強化とはならないまま、静かに段階的に少しづつ強化されてきました。
3つ目は2022年に改定された国家安保戦略です。先端技術が安保上極めて重要になると同時に、経済を武器化する勢力が勃興し、相互依存が必ずしも国際秩序の安定化に繋がらないことが明らかになった時代です。経済安全保障の概念が戦略論として初めて登場し、技術や経済を含むインテリジェンス能力向上の必要性が謳われ、セキュリティークリアランスやサイバーセキュリティーなどに加えて、人的情報収集能力も謳われました。
そして最後の4つめが、今回の動きであり、発端は2025年の高市政権及び自民維新連立政権の誕生です。自民党内では、国家安保戦略に従って既にインテリジェンス能力向上に向けた動きがありましたが、政権運営に不遇が続き、政策が前に進まなかった時代を乗り越え、ようやく辿り着いた端緒です。
そして時代はまさに相互依存の終焉どころではなく、戦後の国際秩序が危機に瀕する時代となりました。国際法が徐々に機能しなくなりつつある現在、まさに日本として生き延びていくための新たな戦略が求められており、そのためにもインテリジェンス能力の抜本強化が不可欠となっています。