消費税を増税するのか、それとも景気の本格的回復を待つのか、いよいよ判断の時期が近づいております。参考までに私は選挙の際には、景気の回復を待つべきだとの趣旨で慎重な立場でした。年末からのリフレ政策の断行で状況は変り、マクロ経済指標は概ね良い数字になっています。
しかし、指標が良いから増税だとか、景気回復が本格的でないから反対だという単純な問題ではありません。増税問題は、意外と複雑な問題です。主に、景気・財源・社会保障制度・オリンピック招致という別個の政策に関係し、それと共に時間の関数、つまり、いつするのかが大きな問題です。
問題を整理します。
増税すべきという論に関係する意見としては、
・日本の財政状況を見れば増税は不可避である。
・社会保障関係費の自然増に対応した財源が必要である。
・増税延期は海外の対内投資を引揚げさせるため景気減速に繋がる。
・マクロ経済指標を見れば増税の環境は整っている。
・オリンピック招致は景気浮揚効果があるので誘致できれば増税環境は整う。
慎重であるべきという論に関係する意見としては、
・増税は景気減速に繋がる。
・特に地方経済の状況は増税による景気減速を許容できる状況にない。
・給与が上がらないなど景気回復が実感できていない状況である。
・消費税がもつ逆進性により格差の拡大に繋がる。
中長期的に見れば、財政や社会保障の観点で、増税は不可避です。世論調査でも本質的に増税に反対する意見は比較少数です。問題は増税時期で、それは景気に直結した問題です。賛否が分かれるのは事実で、ここは高度な政治判断が必要な部分です。
そこで景気との関係に絞って議論したいと思います。景気という観点から言えば、上記の通り、増税してもしなくても景気減速の可能性はあります。増税による消費の低迷を通じた景気減速と、増税延期による外国人投資の減少を通じた景気減速です。
アベノミクスの最初の2本の矢はリフレ政策で、景気の回復傾向のきっかけは何によるものだったのかと言えば、海外マネーの国内株式市場への流入です。世界から見れば、当初の日本株は買いでした。先般も、欧州の公的年金ファンドが日本株に流入してきているという報道がありました。欧州が買ってくるというのは意味があります。通常、外国人といっても、欧州系は堅実的、米国系は投機的、アジアはより投機的という傾向があることが知られていますが、欧州勢の投資がかなり多い(一般的なイメージは米国系)。したがって安定した成長株との見方をされている査証です。
もちろん最近になって米国系やアジア系、つまり投機系もかなり多くなって来ましたが、投資対象として適格のハンコを押されていることには変りません。ただ、問題は、ごくごく最近の市場の動向です。米国の金融緩和幅の縮減や日本の増税判断の動向など不透明な課題が多く、市場も動きが鈍っています。日本が増税しなければ、国債格付けの低下など多くの金融商品が投資不適格レッテルを貼られるとの見方があります。
更に言えば、国内の機関投資家の動きが鈍いとの話も聞きます。外国人投資家は日本株を買えば国内の機関投資家が乗ってくるだろうという思惑があったものの、意外に国内投資家の動きが鈍かったので、一旦利益確定売りを行ったのが先般の株価乱高下です。拍車をかけたのが、外国人による日本株売買のリスクヘッジのための為替の先物買いです。
通常、外国人が日本株を買うと、当たり前ですが為替は円高になる。ところが最近は円安になる。不思議だなと思っていると、背景にこの為替リスクヘッジがありました。外国人が株を売ると円高になる。すると輸出企業は業績が低下する。そういうプロセスの中で、国内投資かと外国人投資家が、にらめっこをしている状態が続いている状況だと感じています。
以上の環境を考えれば、外国人投資家の日本経済に与えるインパクトは、不確実性が高く、それだけアンコントローラブルリスクであると感じます。であれば、消費低迷による景気減速というコントローラブル&エクスペクタブルリスクよりも、回避しなければならない問題だと感じます。
もちろん、こうした近視眼的かつ重要な判断もさることながら、本質的課題の成長戦略をしっかりと議論しスピード感をもって断行しなければなりませんし、また財政問題の本質であるところの税と社会保障制度の抜本的改革を断行しなければならないのは明らかです。