一昨年初旬くらいから中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の話題を徐々に聴くようになり、現在、盛んに議論されています。アジアに対する融資機関にアジア開発銀行(ADB)というのがありますが、基本的には同じものです。なぜ中国がここ数年AIIBを言い出しているのかというと、アジアは今後インフラ需要が増えていくのにADBは投資基準が厳格すぎて使い勝手が悪いから、どんどん投融資できる機関をつくるのだ、と中国は言っています。
一昨年中国を訪問したときに中連部の某氏と議論になりました。私からは、否定はしないし協力できるところがあるならするけど、AIIBのコンセプトが不明瞭だ、ADBと相互補完になるのか、という投げかけをしました。当時、岸田大臣が何かの国際会議でAIIBについて少し否定的なコメントを出した直後だったので、大いに盛り上がりました(少し険悪にもなりましたが)。
このコンセプトの背景には、中国の一帯一路という戦略があります。今年の全人代でも話題になったキーワードですが、要はヨーロッパまで続く交易路の確保であって、陸路にあってはシルクロード経済ベルトと呼ばれるルート、海上にあっては21世紀海上シルクロードと呼ばれるルートを確保し、その経路の開発を中国主導で行い、東アジアとバルト海を結んで、東アジア・中央アジア・中東の経路を確保し、巨大市場を睨もうとするもの。
もっと言えば、細かくは言いませんが、中国にしてみれば、アフリカまでを睨める、という視点と、ロシアとしっかり手が組める、という視点と、昔中国が新しい大国関係(最近は新型国際関係と言っていますが)と言っていたように、こっちの大陸はこっちに任せなはれ、あんたら(米)はそっちの大陸だけ見ときなはれ、という構想の一端として見えるという視点、などを考え合わせる必要があります。これは、マッキンダーの地政学を彷彿とさせる超20世紀的な感じがします。逆に言えば、基準が高すぎるTPPには入れない分、西に向かうしかない中国という捉え方もできます。
で、日本としては、AIIBに入らないとインフラ輸出など商売にマイナスだよねという視点もありますが、逆に、ADBがあるのになんでやねん、ということと、意思決定機関はどんなものなのよ、というガバナンスの問題、ばんばん無秩序にとまでは言わないけど過剰な融資なんかしちゃったら借りた国が返済に困るし出資した方も苦しんでアジアぼろぼろになりませんかねぇ、というリスクの問題、そしてひと段落上で述べた戦略的な視点が中長期的に日本にとってどうなのか、たとえば中国の海洋進出が本格的になるため、尖閣が中国にとって極めて重要なものになるという具体的な安全保障問題にも直結する課題です。なので、基本的にアメリカとは同じ視点ですので、慎重にならざるを得ない。
欧州諸国にしてみれば、東アジアの市場が睨めるので魅力的。であれば、アメリカがどう言おうが日本が目を三角にしようが、入りたいと思うはず。で、日米の(というか米の)顔色を窺って欧州勢は様子を見てましたが、結局当たり前のごとく、イギリス・フランス・イタリア・スイス・ルクセンブルク・・・と参加を表明していきました。
そこにきて、急に政府内から、雪崩を打つように、あれ?入った方がいいんじゃないの?という声が聞こえてくるに至ってます。え?これって、国際会議の席上で昔からよく言われる冗談に聞こえませんか?「豪華客船が沈没しかかっている。船長は乗客を海に飛び込ませないといけない。何と言ったら飛び込んでくれるのか。アメリカ人には”飛び込んだらヒーローになれるぞ”、ドイツ人には”飛び込むのは規則です”、イタリア人には”美人が海にいるぞ”・・・日本人には”みんな飛び込んでいますよ”」と。
AIIBがADBと協調してアジアの発展に寄与できるとしたら、大いに喜ぶべきことです。でも協調できるのかどうかの判断材料を中国は示してはいません。何も中身を言わないで、入らないと知りませんよ、というのは少し乱暴な気がします。ADBとの覇権争いでは決してない。上記で述べた地政学的観点からの戦略を追求すると必ず戦争に、とは言いませんが、争いになります。新たな不安定要因をつくるべきではない。
決して入るべきではないとは言っていません。ちゃんと考えて入るか入らないかを決めなければならないと言っているだけです。何も考えずに単に、目先の商売のことを気にして入るべきだと軽々に発言するのは如何なものかということであって、戦略の思考停止(日本ではよくあるような気が・・・)になるべきでないということです。