【善然庵閑話】丸亀とラバウルを繋ぐ愛(京極会報誌)

(写真出典:Hatazo Adachi, Wikipedia)

地元丸亀市に丸亀城というお城があります。石垣の曲線美に魅せられ、多くの歴女が訪れています。そのお城の藩主の功績を称える京極会という団体から、会報誌に何か書いてくれないか、とのご依頼を毎年頂いておりまして、お恥ずかしながら今年も駄文をお送りした。ここに改めて掲載することにしました。ご笑納いただければ幸甚です。

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鳥取県米子に入るとゲゲゲの鬼太郎が至る所で待ち受けてくれるのだそうですが、それは鬼太郎の作者、漫画家の故水木しげる翁の出身地だからです。ここ最近は米子市を挙げて翁を前面に出した地方創生戦略を採っていると聞きます。そして、この水木翁、戦時中はニューギニアのラバウルに派遣されていたそうです。ラバウルといえば軍歌も作られたほどの方面の要衝。開戦後には方面主力の第18軍の司令部も新設された場所ですが、その第18軍の最初で最後の司令官が、かつて丸亀第12連隊長も経験した安達二十三(はたぞう)です。

安達の新設軍出陣式での訓示は将兵の心を揺さぶったとして有名になります。丸亀駐屯時代の逸話は全く残っていませんが、人間の本質がそれほど変わらないものならば、丸亀にこうした心豊かな人がいたことは、戦争自体の評価は別として、大変心強く思います。「すべては愛をもってせよ」。仁将とも呼ばれた安達は、強い敢闘精神を持ちながら、自ら進んで部下と苦労を分かち合う、そういう態度が部下の間に強い信頼感を生んだと言われます。戦況に鑑みるに、愛という言葉は発し難いと誰しもが考えるはずですが、敢えてこの言葉に拘ったのかもしれません。

昨年末から年始にかけて、中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に全世界に広がり、日本でも3月から5月にかけてピークを迎えました。コロナウイルス感染症に対する有効なワクチンの承認は未だなされておらず、感染に対する漠然とした不安が蔓延しています。更に、緊急事態宣言が行われた期間は、社会経済活動の縮減から、消費・生産・労働というあらゆる側面で経済的に深刻な打撃となりました。ただ、それだけに終わりません。

コロナ禍で抱えた不安という要素は、社会に深刻な傷跡を残しました。自粛警察という言葉が一時はやったように、巷で社会正義を掲げて世をただす運動が盛んになりました。ただ独善的正義であったものも多くありました。主観的正義や独善的正義ではなく、社会の知恵として対処するためには、全員が正しい情報を持たなければならないはずです。例えば、自粛要請を受けた飲食店が店は閉じても深夜まで明かりを点けていたことで、実は家族で団らんしていただけなのに、その情報を持たない者によって、厳しい張り紙を張られたと嘆いていました。社会不安というものは、社会分断を増長し、批判と混乱を招くものなのだということに気づかされました。

このことは、国内の下町の光景に収まる事だけではありません。国際社会は、ただでさえ格差から生じたポピュリズムにより自国主義傾向が強まっていた中で、コロナ禍がそれを加速しているように見えます。米中対立は更に激しいものとなり、主要国の産業サプライチェーンは自国回帰路線を歩んでいるかに見えます。そういう時代だからこそ、安達が言ったように、仁を大切にし、協調を尊び、それでも敢えて一人で進まざるを得ない時には、あらん限りの力を尽くして状況を分析し、果敢に挑戦する、という態度が大切なのだと思います。

今後、有効なワクチンが供給されるまで、しばらく付き合っていかなければならない新型コロナウイルス感染症。目指す社会像から離れていく様相を目の当たりにし、改めて安達精神を胸に秘め、党コロナ対策本部危機管理体制PTの事務局長として、強い思いをもって、何が来ても万全の医療提供体制を整備することに注力しています。また党国際秩序創造本部の事務局も預かり、世界の中で果たしうる日本の理想像を着実に実現していく努力を続けたいと思います。