デルタ株の猛威

デルタ株が猛威を振るっています。まずは対応に当たられる地方自治体、関係行政や医療機関の皆様に心からご慰労を申し上げます。全国各地に緊急事態宣言やまん延防止措置が発令され、県境を跨ぐ移動の自粛が求められていますので、私も東京との往来は控え、必要な東京の会議はリモートで対応しています。

コロナ対応に関しては、昨年より自民党内に様々な会議が設置され連日のように議論を重ねてきました。筆頭格の新型コロナウイルス感染症対策本部、そのもとにワクチンPT(プロジェクトチーム)、危機管理オペレーションPT、情報戦略システムPT、また関連して社会保障制度調査会に創薬力強化PTなどです。そして私自身、何本かの提言を事務局長として取りまとめ、政府に提言して参りました。

そうした提言は、政府に採用され実行されているものもありますし、残念ながらスルーされているものもありますが、採用されたものでも、功を奏したものと、全く効果がなかったものもあり、非常に忸怩たる思いが致しております。コロナ以外の重要な仕事もあるわけですが、それでもコロナ対策には相当な時間をかけてきました。それでも政治は結果ですので、コロナに打ち勝ったという結果を残せていない以上、政治は無策だという批判は甘んじて受けなければらないのだろうと思っています。

(緊急事態下の権限強化)
先般、更なる感染拡大と医療逼迫の現状を前に、全国知事会が、ロックダウン並みの強い強制力行使や、ワクチン接種証明書の利活用などを提言しました。行使すべきかどうかは経済状況を精緻に勘案する必要があるとしても、私自身は感染症のみならずあらゆる緊急事態時における行政権限強化は必要だと痛感しています。国産ワクチンが出遅れたのも、もとをただせば政府の権限がなかったからに他なりませんし、人口当たりの病床数が世界一多く感染者も国際的には多くはないのに医療崩壊が叫ばれる理由も、もとを正せば民間医療機関に行政権限が及ばないからに他なりません。このことは後程深掘りしたいと思います。

(デルタ株の猛威)
デルタ株の感染力は通常の2~3倍だと言われます。この数値は深刻です。通常株の基本再生産数は1.4程度だと言われていましたので、3倍だとすると4.2にもなります。例えば東京の人流はコロナ前に比べ恒常的に5割になっていますので、通常株の場合、感染力は1.4×0.5=0.7<1なので、基本的には感染収束がベースラインとなります。更にワクチン接種が進んでいたので大きな期待が持たれました。一方で、デルタ株の4.2の場合、半分でも2.1ですから、更に人流を半分にしても1.05で感染拡大傾向。1回目の緊急事態宣言を出した直後の状態の8割抑制でも1を少し切る程度ですから、効果は大きなものではありません。現在ワクチン接種が半分に迫っていますので、人流を半分に抑えたものと同等の効果になるとすれば、ほぼ再生産数が1程度の状態になっているのだと思います。結局のところ、ワクチン接種の期待はあったけども現時点ではデルタ株感染力によって相殺されたことになります。ただ、ワクチン接種がこのまま進めば、必ず1以下になるのだと思います。人流抑制については、後程更に深掘りしたいと思います。

(ワクチン接種の推進と政府コロナ対策運用目的の明確化)
少なくともワクチン接種を着実に進めることが最大の効果であることは間違いありません。今後、若年層への接種が進展すると、確実に接種率は下がります。従って、若年層に理解が得られるよう積極的に働きかけるとともに、奨励策なりを打っていくべきとだと考えています。一方で、従前からの主張なのですが、政府のコロナ対策の主目標が何なのかをより明確にすべきではないかと思います。すなわち、人流を抑制したいのか、重症者や死亡者を無くしたいのか、それとも感染を抑制したいのか。政府はどれも最大限務めるとしていますが、コロナウイルスの知見は相当集まっているので、ここで整理をした方がよいはずです。私は重症者と死亡者を出さないことを明確に掲げるべきであると思っています。

(ワクチン供給量)
なお、一時、ワクチンの供給が滞っていて各自治体に届かないという指摘を受けることがありました。現時点でも比較的人口規模の大きな自治体では予約が取れずに困っているという声を聴きます。前者については、国から市中には十分な量が供給されていました。結局、自治体や医療機関によって、接種スピードの違いがあったり、特に2回目の接種に必要な量の確保を待たずに接種に踏み切る方針をとったり、また単に必要量以上に確保しようと考えたりなどで、供給量に地域的偏在が生じたという現象でした。早いところは早いという実感と合致します。国は接種効率を上げるために地域の要望に応じて供給をしているからですが、接種地域格差を完全解消し平等原則を取れば接種率は落ちるため必ずしも悪い方針ではありませんが、接種効率と平等のバランスを多少は考慮し調整する必要があるはずです。現時点では多少考慮されているようです。

(類型指定変更)
加えて昨年より党でも多くの議論があった点が、感染症法上の2類から5類への指定変更です。コロナは現在2類というのは極めて深刻な感染症に分類されています。もちろん運用は柔軟化されていますが、医療機関や保健所など法律に基づいた作業義務が重く、システム崩壊するので、5類に落とすべきだという論です。私も少なくとも区分変更はすべきだと考えていますが、単純5類では権限を弱めてしまうので、コロナの知見も集まっていることもあり、新設類型を上記の目的に絞って新設し、現場負担軽減と行政権限行使による医療提供体制の合理化を図るべきだと考えています。

(日本の医療機関)
先ほど医療機関の確保について触れましたがここで深掘りしたいと思います。日本医師会は、国際的に病床が多くて感染者が少ないのに医療提供体制が十分でないことに対する見解を発表しています。欧米は公的機関が多いので行政権限が及び合理的に提供体制を組めると言われます(未確認)が、一方で、日本は8割が民間病院で行政権限が殆ど及びません。メディアで様々なセンモンカが様々なことに言及しますが、結論はコロナ患者受け入れ要請に応じて頂ける民間病院が圧倒的に少ないということになります。理由は様々です。感染症法上の対応ができない、多額の協力金があっても経営の見通しが立たない、他疾患対応のバランスを取る上で受け入れ困難、スタッフから理解が得られない、医師自らその意思がないというのもあります。

メディアではコロナ対応に当たられる医師やスタッフの窮状を目にしますが、受け入れていない医療機関は、通常業務+クラスター等感染予防ということになります。大変さは違う。受け入れていない医院がけしからんという意味ではなく、そもそも医師法で医師には応招義務が課せられており、正当な理由がなければ診療拒否できないことになっているので、正当な理由というのはあるはずです。なので原則主義を適用し、受け入れるか、若しくは受け入れられない理由を開示する、程度の努力義務は考えうるのだと思います。ただこれには反対も多いでしょう。それ以上にやるべきは、合理的なオペレーションです。実体験からすれば、受け入れていない医師でも、協力する準備はできているというのが殆どです。従って、野戦病院と巷では言われているように、専門の病院を丸ごと借り上げるか、市民体育館なり市民会館なりを利活用して、輪番で対応いただく方が、より現実的なはずです。ここは要請ではなく命令にすべきです。命令というと、嫌がる方も多いと思いますが、政府がすべてに責任を持つということになります。

(人流について)
人員が足りないのではないかという指摘もメディアでされます。病床数で見ると、病院全体の稼働率は8割、救急対応が1割、残り1割と言われていますので、余裕があるように見えます。もちろんこれはマクロの数値であって個別病院にはあてはまりませんし、日本は病床は多くても医師はそれほど多くはありません。通常の疾患であれば、この残り1割でも対応可能なはずですが(できないのであれば不要な病床を抱えていることになります)、指定感染症対応では確かに容易ではないと思います。ただ、医師によって余力に大きな差があるのも事実ですので、不可能ではないのだと思っています。

先ほど人流抑制について触れましたがここで深掘りしたいと思います。先ほど東京の人流は恒常的にコロナ前の5割程度に落ちていることを申し上げました。緊急事態宣言では更に1~2割下がるのですが、徐々に元に戻り1カ月程度で5割に戻ります。この5割を仮に岩盤層と言うことにしますと、岩盤層は通勤通学者によるものです。実はオリンピックや夏休みによる人流の影響はこの岩盤層に比べると数%と非常に微々たるものです。逆に言えばこの岩盤層に切り込むと経済的に多大なインパクトが生じるということだと思いますが、医療への負荷を軽減することを目的に必要なことだと考えています。例えば公共交通機関への努力義務を法律で課して利用者にワクチン接種証明書の提示を求めるなどが考えられるはずです。ワクチンを打ちたくても打てない人がいるのに差別が生じるなどの意見もありますが、危険にさらさないことが目的です。