孤立化するロシア。SWIFTからの排除などの経済制裁に加え、主要クレジットカード会社による締め出しなど民間活動からも排除されつつあります。ロシアは資本流出を避けるために金利を20%に引き上げたとのことですが、ロシアの経済状況は悪化の一途を辿るはずですし、今後の状況次第では更なる経済制裁が行われる可能性もあります。一方、返り血コストの議論もありますが、武力衝突コストを考えれば軽微なはず。コロナ後の経済回復を目指そうとしていた時に誠に遺憾ですが、その遺憾を吹き飛ばす程の遺憾な事態を生じさせているのがロシアのウクライナ侵略です。国際秩序の安定化は何よりも重視すべきであって、そのコストには配慮こそすれども覚悟して臨むべきだと考えます。
その上で、前回も触れましたが、ロシアに関連した中国による台湾侵攻の可能性も、国民の皆様の関心事だと感じます。結論から言えば、ロシアにとってのウクライナと、中国にとっての台湾は、共通点と相違点があり、直接の連動はないけれど注視すべきと考えています。共通点は、侵攻が民主主義と権威主義の衝突、法の支配と銃の支配の衝突、既存の国際秩序への挑戦という地球規模の問題を意味すること。相違点は、中国にとって台湾は国内問題だと中国自身が内外に主張していますから、中国から見ればロシアのウクライナ侵攻とは決定的に意味合いが異なること、そして米国には台湾関係法があることです。これらから、今回のロシアによるウクライナ侵攻が直ちに中国の台湾侵攻に繋がるということはないとみるべきですが、その共通点から想像できるとおり、間接的には同根の問題ですから大きく関連するものであって、ウクライナ情勢の結果次第では蓋然性が低いと言い切れるものではないということを念頭に置きながら注視すべきなのだと思います。
実はそもそも中国はロシアのウクライナ侵攻を忌々しく思っているに違いない、と多くの有識者が当初から見解を示していますが、確かに東欧ではロシアへの批判を避ける中国に対する警戒感が強まっているのだと言います。ロイターが報じた下記の記事にもあるとおり、東欧は中国の看板政策である一帯一路にとって重要な地域であって、ウクライナもまさにその要衝となっています。
jp.reuters.com/article/breakingviews-china-russia-idJPKCN2L109C
また、侵攻が始まる前の1月末に、シャーマン米国務副長官が、もしロシアが侵攻を開始したらオリンピック中の中国は快く思わないだろうとの見解を示していますが、最近報じられたところによりますと(中国は否定していますが)、中国はロシアに対して、侵攻するならオリンピック後にするよう要請していたとのことですので、米情報当局はその情報を1月末時点で把握していたのかもしれません。あるいは直後の2月4日のプーチン大統領と習近平主席の会談に合わせたメッセージだったのかもしれません。
jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-china-olympics-idJPKBN2K01LQ
http://www.nytimes.com/2022/03/02/us/politics/russia-ukraine-china.html
いずれにせよ巷で言われるほど一枚岩ではありません。しかし、繰り返しになりますが冒頭に示した共通点の中長期的な意味合いは決して日本としては忘れてはなりません。そして更に、気にしなければいけないポイントはあと二つあり、それはトルコとイランです。
トルコは先日もこの場で触れましたが、直近のナゴルノカルバフ問題で更に存在感を高めた国ですが、EUとロシアの結節点にあります。先日もプーチン大統領とエルドアン大統領の電話会議が行われたようですが、仲介役として最も注目すべき国です。
もう1つがイラン。仲介役ではなくエネルギー供給の意味での注目国です。市場関係者は今後の原油価格を1バレル100ドル前後と見積もっているようですが(最高150というのもある)、トランプ前米大統領が離脱したイラン核協議も焦点となります。ウクライナ侵攻がなければイランは単純に核合意復帰を目指していたのかもしれませんが、少し風向きが微妙です。
日本としては、今後、国際秩序の安定化に貢献するための更なる具体的な方策とともに、サプライチェーン上のインパクト低減、国際経済の悪化への備え、そして押し迫るであろう物価高に備えた経済政策を断行していかなければなりません。
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