1億円の壁、という言葉をお聞きになった方もいらっしゃると思います。何のことかと言えば、所得が1億円を超えると実効税率(負担率)が下がるという現象のことを指しています。
なぜ下がるかと言えば、所得税の最高税率は45%なのですが、金融所得税率は20%なので、株式投資をすれば税金が実質的に安くなる、という現象です。
で、実際に所得と実効税率の関係をグラフにすると、マクロで見れば所得が1億円のところで実効税率がピークになります。なので、金持ち優遇という批判があります。因みに、申告納税者657.5万人が1億円以下、1.9万人が1億円以上だそうです(令和2年)。
http://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen19kai2.pdf
このギャップを金融所得課税を強化することでカバーし、その分の税収を低所得者層に給付することで、成長と分配の好循環を図るという議論があります。
先に行ってしまえば、私はこの方向には極めて慎重です。
第一に、新しい資本主義による成長と分配の好循環は、こうした古い資本主義のオペレーションで実現しようとするものでは本来なかったのではないかと思っているからです。むしろ、好循環が生まれていないという社会課題をマネタイズし、民間の力で好循環を生もうとすることこそが新しい資本主義なはずです。
第二に、月並みですが金融所得課税の強化は市場に著しい悪影響を及ぼす恐れがあるからです。個人税の公平感のみをもって議論されるべき話では全くなく、税制と市場の総合的なダイナミクスのなかで議論されるべき問題です。そもそも貯蓄から投資という政府方針とは逆行します。少なくともキャピタルゲインに手を付けるべきではないと思います。