半導体に関するお尋ねを頂くことが多くなってきました。確かに目に見える形で半導体が入手困難となっていること、サプライチェーンの脆弱性に注目が集まっていること、米中対立構造のなかで半導体製造拠点整備に関する報道が多くなっていること、を感じます。半導体については、党の半導体議連(甘利明会長、関芳弘事務局長)で議論しています。
日の丸半導体の復活をかけて、Rapidusという会社も立ち上がりましたが、断片的な報道ばかりで、何がどうなっているのか分からないというお声もありますので、今日は、日本の半導体戦略の方向性について触れたいと思います。参考までに、まずは経済産業省が昨年発表した半導体戦略を紹介します。
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-4.pdf
(日本の半導体戦略)
何をしようとしていて、何で勝とうとしているのか。最も簡単に言えば、半導体は設計できても製造技術がカギを握っていて、日本が弱いと言うのは製造技術の話です。なので、大まかに言えば、2つの方向、すなわち、国内で既存のタイプの半導体を安定供給できる製造拠点を作ることと、世界最先端ロジック半導体のトップグループに躍り出るための製造拠点を整備すること、が目的になっています。
理由はそれぞれ、現在のように半導体の安定供給を確保しなければ多くの産業に影響がでること、と、今後の半導体全体の需要は毎年2割増加すると言われており、更にカーボン政策などで省エネ化の必要が生じているため、少し先の世代の製造能力が必要なことです。
①現時点でも広く使われている半導体の製造基盤を確立して安定供給が可能な体制を構築するとともに、②ロジック半導体では線幅10nm台という現時点での高性能半導体の領域で製造基盤を確保して少し将来までの安定供給を確保し、③更には線幅2nmという世界最先端の領域に一気に躍り出て、その先を目指すというものです。
①が経済安全保障推進法のサプライチェーン強靭化枠で取り組もうとしている内容です。産業界で広く使われる半導体の8割は海外から輸入しておりますが、そのうちパワー半導体の製造能力を強化します。また、その他に、現在では高い世界シェアを誇るものの将来の世界需要の伸びに対応するために、シリコンウェハの製造能力、パッケージ基盤、そして少し先のSiCウェハの製造能力、原料である希ガスやフッ化水素等の製造能力、リサイクル施設整備等、を強化していきます。つまり、現時点から少し先までの時間スケールの、勝ち目維持を目指します。新聞記事では例えば以下に相当します。補正予算で4500億円ほど基金を積む予定です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA132IS0T11C22A0000000/
②は、経済産業省の事業で、少し前に大きく報道された世界最大の半導体製造メーカーである台湾のTSMCの熊本への誘致が柱です。これは、5G促進法に基づくもので、これも4760億円ほど基金を積んでいます。新聞報道では例えば以下に相当します。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20220617/5000015943.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC061YX0W2A001C2000000/
③はごく最近報道が増えた領域で、冒頭触れたRapidusという会社は、この次世代半導体研究開発プロジェクトに沿って活動することになります。昨年の補正予算で700億円ほど基金をつみましたが、今後の事業者の取り組み次第で更に資金を充当できるよう、今年度補正で更に4500億円ほど積み増す予定です。取り組み次第と書いたのは、いくつかのポイントがあり、事業が成功するか否かは国際連携にかかっているため、その状況を見ながらということになります。では国際連携とは何かと言えば、最先端の製造技術はアメリカのIBMが保有する集積化技術やオランダの保有するEUV露光装置がカギになっており、政府が交渉の前面にでているのですが、詳細は事業者ということになります。
https://www.meti.go.jp/press/2022/11/20221111004/20221111004-1.pdf
(なぜ日本は半導体で負けたのか)
半導体と一言で言っても、最終パッケージ品ができあがるまでには多くの製造工程があり、部素材や製造装置などでは未だに高い世界シェアを誇るものもあります。また、半導体にも、ロジック半導体、メモリー、パワー半導体など、様々な種類があり、種類によってはこれもシェアを維持しています。更に、時間軸で見て、どういった技術を将来目指すのかという視点もあり、研究領域で先端を走っている研究者が日本にいたりします。このことは、後で触れたいと思います。
では、何が負けたと言われるのか。産業全体の売上です。1980年代頃は、世界シェア50%を超えていましたが(2位はアメリカ)、今や日本は10%あるかないか。負けたきっかけはいくつかあるのだと思います。
私が一番大きな理由だと思っているのが、産業構造のあるべき姿を見誤ったことです。1990年代、平たく言えば、日本の企業も政府も、日の丸自前主義に拘った。世界が垂直統合から水平分業に向かっていたのにも関わらず、日本は垂直統合モデルを突き進んだ。拘ったというより、それしか知らなかったと言ったほうがいいのかもしれません。世界ではオープンイノベーションと国際連携が進んでいました。もし仮に、1990年代に自社の製造部門を切り出して、日本勢だけで製造拠点を作っていれば状況は相当違っていたと思います。実際は海外の製造メーカーを下請けとして使っていたところ、実際には下請けの方が強くなってしまったということなのだと思います。
それでも2000年代までは、日本は先頭グループを走っていましたが、リーマンショックで投資環境が悪化。以降は先端分野に投資が回らず、むしろ売上重視でボリュームゾーンに向かった結果、衰退の一途をたどったのだと思います。
ついでに言えば、1980年代に日米半導体協定でコチンとやられたことも指摘があります。また1990年代に、売上の中心がロジック半導体へ移っていったにも拘らず、日本はメモリを追い求めたこともあるかもしれません。
(復活できるのか)
復活をかけて努力していかねばならないと思っています。技術の世界は私も経験しておりますが、それほど生易しいものではないことも十分に承知をしています。下町ロケットというドラマをご覧になった方もいると思いますが、人からダメ出しされ、逆に過剰な期待をかけられ、失敗を重ね、何度も諦めかけ、しかし一縷の光が見え、かと思うと更に失敗をし、時には出し抜かれ、時には小さな成功に勇気づけられ、という汗と涙の結晶が、世の中から評価されるかされないかは、最初は分かりません。しかし、最初から分かっている成功では、勝てないのは当たり前です。
セオドア・ルーズベルトの演説で、The Man in the Arena(アリーナの男)というのがあるのですが、意訳すれば、「批判され、失敗を重ね、あら捜しれ、それでも汗と埃と血に塗れた顔でアリーナに立って、勇敢に戦っている男にこそ名誉はある。」というものです。成功に最も必要なのは周囲の理解なのだと思います。
ただ、そうした精神力だけで乗り切ろうとすると最終的には必ず失敗します。日本は長らく技術で勝ってビジネスで負けてきたと言われますが、そうした認識は関係者間で共有しています。ビジネスでも負けないような仕組み作りを当初から考えておくことが必要です。