国家安全保障戦略

初めて国政選挙に挑み当選したのは、今から丁度10年前の2012年12月16日なのですが、丁度10年となったまさにその日に、国家の外交安全保障の基本的な方針である国家安全保障戦略が初めて改訂されました。初版策定は2013年12月の同じような時期で私も高揚感に包まれつつ議論に参加した覚えがあります。安倍晋三総理が首相に就任して丁度1年でしたから、就任とほぼ同時期に国家安保戦略の策定を命じたことが伺われます。

議員になる前から外交や防衛には関心がありましたから、本質的に日本の官邸という司令塔が抱える構造的な問題は感じていました。実体的に外務省と防衛省の歩調がバラバラなこともあり、互いに牽制することさえ多くありましたから、少なくとも外交安全保障の総合司令塔機能が官邸に必要だったということでは部外の関係者の意見は共有していました。

安倍総理は就任後に直ちに戦略を策定、国家安全保障会議並びに国家安全保障局を設置。国民から見たら、全く見えない世界だと思いますが、このことが日本の外交と防衛を劇的に進化させたと言っても過言ではないと思います。

今回の改訂では大きな変化がありました。

まずは現状認識について、中国は「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」、北朝鮮は、「十全よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」とされました。

政策の変更では、まずは国家安全保障を何で支えるかという視点です。これまでは外交と防衛で支えることとされていましたが、今回は外交が前面にあって、防衛力は外交を支えるものであって、更に経済的側面でも国家安全保障を支えるとされました。我々経済安全保障チームで累次に亘る提言で求めてきたものですので、大きな一歩となりました。

そのほか、そもそも文書体系も相当はっきりと分かりやすい形となりました。まずは最高位に国家安全保障戦略があるのは同じですが、これまでは防衛大綱と中期防衛力整備計画が防衛文書でした。実はこれらの文書の境目が分かり難いという指摘が多くありました。今回で、それぞれの文書は「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という名前に変更された上で、それぞれの文書のミッションが明確に与えられました。

その上で、理念や戦略だけではなく、実質的に質と量の両面で防衛力の抜本的な強化が明示されました。具体的には先進諸外国に並ぶGDP2%相当の国費を防衛予算に充当することが戦略文書上謳われました。

具体的な政策内容については、まずは反撃能力です。憲法上、相手から攻撃される前でも、いわゆる着手があった際には、相手を攻撃できる、というのは、政府の戦後一貫した立場ですが、政策として、そうした能力を保有することはありませんでした。今回で保有する方針としました。基本的には、この能力を行使するには大きな責任が伴います。ガバナンス体制の強化もありますが、実体的な行使能力は、単にぶっ放すということではなく、正確に照準を定めることですから、インテリジェンスがものを言います。そうした日本独自のインテル能力を強化した上で、日米でしっかりとした関係を構築するため、情報保全体制やクリアランスをより強固にしなければなりません。これらも戦略に明記をされました。

第二に、同じ文脈で言えば、サイバーセキュリティ能力の抜本強化。特に以前から長らく指摘されていた、能動的サイバー防衛です。サイバー攻撃は日常的に発生しておりますが、これまでは受動的サイバー防衛、すなわちウイルスソフトを入れるとか、検知するとか、そういうことしかできませんでした。それは何を意味するかと言うと、どこから攻撃が仕掛けられているか探知さえできず、また未然に攻撃を防ぐこともできません。従って、攻撃者側にサイバー上で侵入し、どこから攻撃が発生しているのかを見極める必要があります。また、場合によっては攻撃源を無力化することも必要です。

サイバーについては、通信の秘密が保証されていますので、能力を保有するためには法律上の工夫が必要になってきます。すなわちサイバー犯罪を予防することについては例外扱いをするということです。また、無秩序に政府がサイバー調査をできるようにするのは問題があるため、どのような場合に何を対象にできるようにするのかを議論していかなければなりません。しかし、ウクライナ戦争でも明らかになったように、確実に必要な能力であることは間違いありません。

その他、海上保安能力の拡充、経済安全保障政策の促進、更には装備品移転の促進なども明記をされました。

具体的な防衛戦略については、上記の国家安全保障戦略に従って、スタンドオフミサイル防衛能力(長距離誘導弾等)、統合防空ミサイル防衛能力(反撃能力、イージスシステム搭載艦等)、無人アセット防衛能力(UAV,USV等)、領域横断作戦能力(宇宙・サイバー・電磁波など)、指揮統制情報関連機能(目標探知・追尾能力等)、機動展開能力や国民保護(輸送機・補給拠点等)、持続性強靭性(装備品可動率向上・弾薬調達等)の7点が重視する能力とされました。

これらは相当程度自民党の安全保障調査会で議論を重ねてきた内容が含まれており、内容的には100点満点に近いものであると思っています。

一方で、財源については今月に入って大きな議論がありました。思い返せば、先月、総理から財源セットで防衛力強化の検討を行うとの表明があったのですが、増税に関するコミットはありませんでした。無かったことが混乱を招いたようにも思います。私自身も、法人税付加税4%程度とか所得税1%程度とかいう原案提示があった際、経済に対するインパクトについて心配を致しましたし、当惑もしました。

結果的には、歳出改革等を行った上で、個人的負担は実質的にゼロ、心配された復興財源も課税期間を延長することで影響なし、法人税も控除枠の設定で課税対象が全法人数の6%程度ですから大企業中心となりますし、実効税率は1%程度ですから、巨大すぎる経済インパクトではないのだと理解しています。更に言えば、追加的な防衛関係財政支出3兆円の大半は国内に投じられますのでプラスの可能性もあります。従って、課題はメッセージの発信の仕方なのだろうと思います。ただ、個社にとっては賃上げもありますから負担もあります。経済は生もの。本格議論はこれからです。責任を持って判断していきます。

いずれにせよ、来年から詳細な制度設計や運用指針の議論に入りますが、何があっても安心安全な国となるよう努力を続けていきたいと思います。