デジタル田園都市国家構想

今年最後の政策ネタとして、デジタル田園都市国家構想について触れておきたいと思います。

デジタル田園都市国家構想というのは、大平正芳総理が提唱した「田園都市国家構想」の言葉を引用して現代版に焼きなおし徹底的に具体化した戦略です。

■地方創生2.0

デジタル田園都市国家構想とは、一言で言えば、新しい地方創生のことです。ではこれまでの地方創生と何が違うかと言うと、大きく分けて2つあると思っています。1つは明確にデジタル化を意識したということ、もう1つは、新しい資本主義の理念が描かれていることです。

■なぜデジタルなのか(空間軸か時間軸の合理化しかない)

なぜデジタルが必要になるのか。既に広く共有されたことですが、地方の構造的課題は人口減少です。掘り下げると、人口が減るということは需要が劇的に減少していくということです。従って同じ価値を創出するためには、供給を合理化するしかありません。

そのためには、空間軸を合理化するか時間軸を合理化するしかありません。空間軸は、例えば駅前に人口を集約するなどコンパクトシティー構想などで供給を効率化する方法です。しかし、政治的には住民に住居変更をお願いすることは中々難しく、進んでいないのが現状です。

であれば、時間軸を縮小するしかありません。これは一見アインシュタインであっても無理と思われがちですが、デジタルを活用すれば時間軸も空間軸も縮まります。すなわち、自治体にとってコンパクトシティーを進められないのであればデジタル化しか方策はないと認識しなければなりません。

■不可避なデジタル化

つまり、デジタル化は避けて通れないということであって、自治体は「俺は不得意」とか「良く分からん」とかは言ってられないと認識すべき話です。デジタルというと、何となく「きらきら」した「現代の若者」的なイメージが出てしまうのですが、そういう時代ではもはやありません。

昨年、政権発足直後にデジタル田園都市国家構想が発表され、今年末に総合戦略が発表されました。骨格としては、地方に仕事を作り、人の流れを作り、育児子育て環境を整え、魅力的な地域づくりを推進することを目的に、デジタル基盤の整備、デジタル人材の育成が謳われました。

■地方はまず解決したい課題をを一つだけ選ぶべき

こう書くと、では国は何をやってくれるのか、という質問が飛んできそうですが、それはあまり意味をなさない質問で、むしろ自治体が何をやりたいのか、に尽きます。

ただ、そう書くと、自治体任せではないか、という指摘を受けそうですが、左に非ず、地方が抱える課題は大なり小なり似通ったものになりますので、優良事例の横展開(他地域で上手くいっている事例を多少アレンジして導入すること)が最初の入り口になります。そのための様々なメニューも予算も用意しています。

しかし可能であれば、その地域にあった、その地方独自の施策を1つだけ選んで進めて頂ければと思っています。これを描くのが地域ビジョンです。

■市営バスって合理的?

では何をすればいいのか。地方の課題は言うまでもなく少子高齢化です。では高齢化は何が問題になるかというと、大きく言えば移動手段と介護ケアの2つです。例えば移動手段では、市営バスなどを思い浮かべますが、自治体の財源不足で運営を縮小や中止したりするケースが相次いでいます。確かに市バスは、どの自治体でも乗車率が低く効率がいいとは思えない。

■ベーシックインカムは正しい方向か?

市営バスだけではありません。例えば社会保障制度。生活保護者も含めて最低限必要な収入を保証する、いわゆるベーシックインカムという考え方が一時流行しましたが、これは需要(人口)が増大するなかでの格差解消の考え方の一つではあっても、需要が減退する現在の状況では共産主義国家の衰退と同じ末路を想像してしまいます。むしろサービスを受ける利用者側が生活に必要な最低限の衣食住サービスを月額料金でサブスク的に享受する方が時代に合っているように思います。移動手段も、月額料金を利用者側から徴収して運営する方が良いはずです。

理由は簡単で、サブスク型の場合は需要が特定されるので(不特定多数ではない)、需要が見える化されるため、サービス供給側が需要に合わせることができるようになる、すなわちサービスの可能性の幅が広がるというのがポイントです。可能性が広がるということは、事業の持続可能性が高まるということになります。

不特定多数を相手に、乗る人がいるかどうか分からないのに、だらだらと市営バスを走らせるよりは、需要を把握し効率的に走らせるべきです。こうした方向は、デジタル基盤を活用すれば更にリアルタイムに需要の把握ができるので、事業の持続可能性が高まります。

アイディアは無限にあるのだと思います。デジタル田園都市国家構想では、スマートシティー、スーパーシティー、デジ田活用中山間事業、大学との連携、SDGs未来都市、脱炭素選考地域のほか、地域交通リデザイン、地方スタートアップ促進やテレワーク推進、地方版子育て事業、教育DX、遠隔治療、観光振興などが想定されてます。

■補助金の考え方からの脱却

行政は住民サービスを提供する際に補助金を出すことが結構あります。先ほどの市営バスもそうです。重要な考え方ですが、需要をデジタル基盤で徹底的に把握し、サービスを合理化できれば事業の持続可能性は高まることは述べました。であれば、バス会社に直接補助金を出すよりは、需要を把握できるようなデジタル基盤を作り上げた方がいいはずです。

もっと言えば、補助金は本来、初期投資補助であるべきで、運営に直接出すべきではありません。なぜならば、補助金を出せば出す程、事業は非効率になるからです。

さらにさらに言えば、例えば事業運営会社が目標を明確に立てて(例えば契約者1000人など)民間から出資を募り、事業目標が達成できたかどうかで、行政が出資主に補助金を還元する方が、行政にとっては成功した事業にだけ補助金を出せるようになるので税金の無駄が抑えられ、一方で民間出資者は事業運営会社が成功しないと行政から交付が受けられないので経営に直接の関心を持ちながら支援をするだろうからです。こうした公金の使い方をソーシャルインパクトボンドと言います。

■デジタル田園都市国家構想の具体的な目標

国も目標を立ててその達成に向かって努力します。多くの具体的な目標が立てられていますが、例えば企業版ふるさと納税を2027年までに1500件、デジタル活用こども家庭センター設置を全自治体で、新しい移動手段の提供体制の構築(700自治体)、物流のデジタル導入を2025年までに7割に、光ファイバー普及率を2027年までにほぼ全自治体で、5G普及率を2030年までに99%に、地方データセンターを2027年までに数十か所に、デジタル人材を2022から26年の累計で230万人に、そしてデジタルすいしんいいんを現在の2万人から5万人に、無人運転を2025年までに50か所に、などです。

■新しい資本主義

繰り返しですが、地方の構造的課題は需要が減少することであって、そのために供給が需要に合わせていく必要があること(アマゾンは典型例)、そのためにはデジタル利活用が必須になること、そして行政による支援は単純な補助事業は避けサブスク型にするかソーシャルインパクトボンド型の地域巻き込み型にすること、が重要です。

その上で、最後に新しい資本主義に触れます。上で述べたような社会課題解決は、ビジネスで解決する方向に向かうべきです。すなわちソーシャルビジネス事業者であるべきだということです。新しい資本主義とは、一言で言えば投資を増やそうとする考え方ですが、そんなことは百年前から言われていました。何が新しいのかというと、投資先が社会課題解決だということです。実は世界には7000兆円とも言われる資金(ESG資金と言います)が新しい投資先である社会課題解決事業に向かおうとしています。社会課題は脱炭素であってもいいし、農家所得向上であってもいいし、市民バスでもいいはずです。

世界にそれだけの資金が投資先を探しているなら、それを日本に引っ張ってくることが重要です。まずは日本の大企業がそうした投資を受ける環境を整えることが必要です。大企業がそうした世界のESG資金を受けるには、大企業自体が社会課題解決を実践しなければなりません。例えば大企業が地方の社会課題解決に乗り出し、ソーシャルビジネス事業者に出資したとして、それが評価され世界のESG資金を手にすることができるようになるれば好循環が生まれる。そうした環境を整備することが重要です。まずは、社会課題を評価する物差しが必要になります。

■最後に

世界の構造が変わろうとしています。地域の構造的課題をメリットに変えて、社会全体の好循環に繋げるように努力していきたいと思います。