日本学術会議の行方

我が国の科学者の代表機関である日本学術会議が先日の9日、臨時総会を開き、声明を発出しました。読売新聞は、おどろおどろしい見出し「学術会議、法人化案容認せず」と報道していましたので、おや?と思ったのですが、後で調べて見ると、当該新聞記者が記者会見に臨んだ会長に何度もしつこく容認するか否かを詰め寄り、ついに根負けした会長が「容認しない」と発言。結局、見出しを取るための質問だったのではないかと思います。

声明:日本学術会議のより良い役割発揮に向けた基本的考え方

ご存じのように、日本学術会議は政府の機関ですが、様々な問題が指摘されており、改革の案が度々提案されてきましたが、そうした提案がでてくるたびに、日本学術会議は「独立性が侵害される」との声明を繰り返し出していました。どんな案も独立が侵害されると仰るので、「では独立したら」、ということになりました。流石に独立案に「独立性が侵害される」という声明は出てこないと思っていたので、冒頭の記事は違和感を感じたという次第でした。主観ですが、実は共産党の赤旗新聞でも読売よりは少しマイルドであったし、他社はより中立に報道していたように思います。

この声明は、基本的に政府の独立案に沿ったものに見えますが、その上で指摘5点を意訳すると(正確には上記本文をご覧ください)、1.法人化するとしても組織のルールは自分らで決めさせてくれ、2.人事は自分らで決めさせてくれ、3.政府への勧告は引き続きさせてくれ、4.財政的な安定性は担保してくれ、5.本当は国の機関の方がいいのでは、ということだと思います。

この声明発出に先だった臨時総会では、様々な意見がでていましたが、反対意見としては、学術会議が民間資金を得ると良くてロビー活動、悪くて紐づけ政治献金になるとか(海外機関を非難しているのだろうか)、立法事実がない(政府がやることだからお気に召さないのだろうか)、などの意見があったほかは、比較的中立な意見が目立っているように思います。例えば、譲れる線と譲れない線を考えるべき、日本の学術にとって合意した方がいいかどうかを考えるべき、自らがどう改革するかという案を持ちながら改革案を受け入れるかどうかを議論すべき、第三の案を自らが具体的に示すべき、政府主導ではなく科学者がイニシアティブをとった議論であるべき、などです。その他は、ガバナンス、財政基盤、そして任命問題の指摘があったと聞いています。

いずれにせよ、この声明の後に、日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会では、以下の議論がありました。

第8回日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会資料「これまでの論点整理(未定稿)」

「国の機関のままでの改革には制度面でも財源面でも限界が感じられるため、学術会議が諸外国並みのダイバーシティを制度的にも担保し、求められる機能を十分に発揮するためには、国とは別の法人格を有する組織になることが望ましい。法人化により、活動の拡大強化と、それを支える財政基盤の多様化や事務局体制の充実についての可能性が広がる一方で、国の組織でなくなることから生じる具体的な制度上のデメリットは、これまでの議論の中で確認されていない。」

政府及び日本学術会議が、共に日本の学術のため、そして社会のため、何が必要なのかの共通認識をもって、改革を断行して頂くことを切に願います。(因みに私は、中国やロシアと同じ政府の機関で維持するよりも、民主国家標準の独立機関とすべきと強く思っています。)