続、防衛装備品の海外移転

昨年末に同じタイトルの記事を認めましたので、その続編となりますが、今回は特に積み残っていた課題の次期戦闘機の国際共同開発について、そしてその後の移転の在り方についてです。

■移転のルール

前回も触れましたが、移転の仕組みをざっくりと簡単に説明すると、いわゆる三原則は僅か3ページの文章で、

①「国際ルール違反の国」「安保理措置国」は禁止
②「平和貢献・国際協力」「国際共同開発」「自衛隊活動」は許可
③ただし「適正管理」すなわち「目的外使用」「第三国移転」は「事前同意」を義務付け

が基本です。ただ余計なことにこの三原則には運用指針が定められることが前提になっています(本来、三原則自体が外為法の運用指針みたいなものなので、運用指針の運用指針になっています)。

令和4年度運用指針

その運用指針は5ページの文書で、移転が認められる場合として、

(1)「平和貢献・国際協力」(相手が「政府」か「国連等の国際機関」か「その決議で活動する機関」)
(2)「我が国の安全保障に資する海外移転」(「同志国との共同開発・生産」か「同志国との安保協力強化に資する場合」か「自衛隊の活動」)
(3)その他

が挙げられ、加えて「厳格審査」(相手の適切性や我が国の安保上及ぼす懸念の程度)や「適正管理」(目的外使用や第三国移転)、そして「手続き」(国家安保会議や幹事会審議)が細かく定められています。

お気付きかもしれませんが、移転が認められるコアの部分を見れば、三原則本体の②と運用指針の(1)(2)を比べると、運用指針では「同志国との安保協力強化に資する場合」というのが加えられています。その中身は、

(ア)「ACSA」、(イ)「米国への技術」、(ウ)「米国への米ライセンス品の部品・役務」、(エ)「救難・輸送・警戒・監視・掃海」、(オ)「ウクライナ特例」(非武器用途廃止品)

すなわち、(ア)(イ)(エ)は、ACSAなど個別法がある場合や、米国への技術・部品・役務、ウクライナの場合ですから極めて限定的な特殊例ですので、一般的には(エ)、すなわち5類型が認められる場合となります。

そもそもこの5類型は、後で詳細について触れますが、過去の改訂で「シーレーン防衛」を念頭に設定されたもので、当初の議論では単に「シーレン防衛」に資するとなっていたものを、それだと漠然としすぎるというよくわからない理論で定まったものだと聞いています。良く分からないと申し上げたのは、例えばなぜ「通信」や「給油」が入らないのかとか、理屈ではない政治合意の産物になっています(こういう適当さが私は嫌いです)。

■昨年末の改訂

昨年末の改訂は、23回にも及ぶ実務者協議会によるもので、運用指針(2)の「同志国との共同開発・生産」については、第三国への完成品を除く部品や役務の提供が、(2)「米国への米ライセンス品の部品・役務」については、米国以外からのライセンス生産品も含め、第三国への完成品を含む提供が、(2)5類型については、部品は類型に関わらず全面解禁、完成品は引き続き5類型縛り、となりました。ただ、繰り返しですが、完成品の5類型が解除されない限り、我が国の望ましい安全保障環境創出には繋がりません。

令和5年度運用指針

■次期戦闘機

ご存じの通り、日本はイギリス、イタリアと次期戦闘機(現F-2の後継)の共同開発を行うことが決まっているのですが、日本が作った戦闘機を第三国に移転することについては、自公の実務者協議の結論で、「移転できるようにする方向で議論すべきであるという意見が太宗を占めた」との結論を得ていましたが、これに公明党幹部が難色を示し、政調会長預かりとされた上で協議が続いていました。先日、ようやく与党合意に至りました。

そもそも防衛装備品の海外移転の本質は誤解を恐れず言えば同盟化です。特に戦闘機の場合は非常に長い期間の運用が想定されます。例えば現在のF-2戦闘機は2000年に運用が始まりましたが、退役が始まるのは2035年頃と言われています。従って、次期戦闘機も、開発期間も併せれば、凡そ4~50年の期間にわたって英伊と固い絆を作るということになります。

そして英伊とともに慎重に厳選された第三国に戦略的に移転することで同志国のネットワークを広げ、同志国とともに抑止力を高めることができます。そこで初めて、日本にとっての望ましい安全保障環境の創出が可能になります。もちろん、国際共同開発と移転促進は、コスト低減にも繋がりますが、それは副次的産物であって、本来の目的はあくまで抑止です。装備品を必要とする国に厳格な審査を通じて移転することで、仲間を増やそうということです。

慎重派は、移転によって紛争を助長したり秩序が乱れたりする、と言います。紛争を助長したりするような移転は、そもそもする訳もありません。こうした論は戦後直後の古い安保論であって合理的な答えにはなりえません。現実的な戦略眼の基づかず、イメージで政策を決めるのは止めるべきです。平和を希求するのは積極派だろうが消極派だろうが同じです。平和というのは、決して国際協力もせず座して待つだけで訪れるものでは絶対にない、ということは自明です。平和は努力して勝ち取るものです。

一方で、戦闘機などと言う高度な装備品を解禁したら済し崩し的に移転が認められるようになる、という意見がありますが、そもそもなし崩し的に移転できる制度にもなっていませんし、事実、既に何十年も前に日米共同開発した超高度な戦略的装備品である迎撃ミサイルの開発を見れば明らかであって、全くあたらない指摘であると言いきれます。こうした論は、移転に否定的な結論ありきの論で、国際情勢に目をつぶり、日本政府の動向しか見ずにその批判をしていれば平和は訪れると思っている向きかもしれません。

■今後の移転の在り方(5類型※)

悪名高い5類型(※)については撤廃すべきです。というのも、そもそも前段の戦闘機という高価かつ戦略的な装備品を移転できる対象国は極めて限られているからで、同盟のネットワークはそれほど広がりません。

5類型というのは、具体的には救難、輸送、警戒、監視、掃海のことですが、そもそも論理的に立て付けがおかしいと感じるのが、三原則は外為法の運用規則であるので、物品の形状や属性など、具体的な技術リストで決まるべきものなのが、使用目的で規制しようとしているところです。

外為法本体で言えば、ワッセナーアレンジメントという通常兵器や関連汎用品の国際貿易規制ルールがありますが、これには規制すべき具体的な技術リストが示されています。しかし、三原則では、運用指針という運用の具体化をすべき文書では抽象的な運用目的で規制するものとなっており、そもそも無理があると感じています。

100歩譲って運用目的で縛るとしても、なぜ5類型なのかという疑問があります。歴史的には、先にも触れたようにシーレーン防衛に資する装備品の具体化であると言われていますが、シーレーン防衛だけでは秩序の劣化は避けられない現在において、5類型であるべき理由が説明できません。

ただ完全撤廃と言っても政治的に合意が得られる可能性は少ない。一方で現状維持であれば、明らかに望ましい安全保障環境を創出できない。そうした思いから、昨年末の実務者協議会での議論では、私案を提出させていただきました。

すなわち、5類型に代り、この5類型のそれぞれを包含する形で、殺傷類型、破壊類型、非破壊類型という3つの概念を提示し、殺傷類型のみ移転を禁じるものです。非破壊類型というのは、破壊も殺傷も目的としない活動の過程で必要な武器であると整理。破壊類型というは、破壊のみを目的とした活動に必要な武器、殺傷類型というのは、殺傷を目的とした活動に必要な武器という整理です。掃海は破壊類型ですし、非破壊類型(非破壊は同時に非殺傷でもある)は警戒・監視・救難・輸送が含まれます。掃海が破壊類型である以上、破壊類型は既に認められたものであると考えるべきですし、こうすることで極端な概念の拡張をすることなく、現実問題として生じる、なぜ給油がダメで掃海はいいのか、などのニーズ国の疑問を晴らせることになります。

因みに警戒や監視などは部隊に与えられたミッション(役割)であると考えれば、例えば衛生や給油は非破壊類型、地雷処理やドローン処理は破壊類型、機雷や地雷の敷設は殺傷類型に入ります。後述のように、本来的には運用指針で部隊のミッションなどを書くべきではないのですが、歴史的に政治合意された文書であるために、ドラスティックな変更を加えない範囲で、我ながら合理的な考えであると思っています。