強い日本・強い経済

選挙中にもお訴えを致しましたが、今必要なのは、将来日本をどうしたいというビジョンです。メディアの不安扇動は極端だとしても、人不足や稼ぐ力の低迷、特に介護と運輸などの状況は極めて深刻ですし、社会保障の持続可能性に不安を感じない人はいません。だからこそ、改めて力強い日本、力強い経済の再興を、強く主張しています。

現状の物価高による税収増分をフル活用し、サプライサイドに集中的に投下し、社会産業構造を一気に刷新すべきです。サプライサイドというのは医療・介護・保育・農業なども含めたモノやサービスの供給側のことで、生産性を高める投資を行う。当然、民間の国内投資を促す方向です。また、日本が世界をけん引できる成長分野、革新的技術領域も注力すべきです。ポイントは成長と持続可能性です。当然経済安全保障上のサプライチェーン強靭化や防災減災国土強靭化も必須です。

この必要性はデフレギャップからも見て取れます。経済は需要と供給のバランスで決まりますが、従前は需要が弱かった。デフレギャップも昔はマイナス10%とかいう時代がありましたが、今では統計によってはプラスに転じることもしばしあります。即ち総需要を喚起するということよりも、供給力を高めなければならない大きな転換期にあります。

経済成長は、労働と資本とその他の全要素生産性(TFP)で決まりますが、労働は喫緊の課題です。省力化投資も当然ですが、外国人材に対する魅力向上は必須です。制度の抜本改正による無尽蔵の受け入れ拡大には反対ですが、制度調整をしながら現状の管理制度下で十分に可能と考えます。因みに現在の在留外国人は約342万人ですが、驚くことにここ5年で入国超過数は7万人から16万人に増えています。問題は、受け入れ先国の賃金上昇によって日本で働く魅力が薄れていることです。日本を選んでくれるような魅力維持に注力する必要があります。

加えて働き方改革の調整です。ワークライフバランスはマクロ経済的にも有効であることが分かっていますが、もっぱら大企業の場合に特に有効です。一方で均一的な労働規制によって地方では労働力不足が深刻になっています。働きたい人が働けない。こういう働き方改革は修正すべきです。労働移動の円滑化を前提に進めていく必要があります。

因みに年収の壁の議論が盛んに行われています。凡そ制度の理解が進んでいないまま報道が過熱しているように見えます。私は労働参加率の拡大の意味で注目しています。まずそもそも所得課税控除額103万円を引き上げる案ですが、昔指摘されてた年収の壁問題は既に改善が施されているため、壁というより7-8兆円規模の所得減税の問題といえます。そして当然ですがそのままでは高所得者に滅法有利になりますから工夫も必要です。経済的に見れば、先に書いた通り、本質的には供給側に財政を投下して所得を向上させるべきです。そして何より、労働参加的に見ると、現行制度でも、配偶者は特別控除で150万円までは非課税で、200万円まで段階的に減税幅が縮小される制度なので、控除額の引き上げでは配偶者の労働参加が促されるわけでは必ずしもありません。唯一、学生などのアルバイトは別ですが、学生に労働力を求めるものではありません。従って、労働参加が促されるような設計を考えるべきです。因みに本当の壁は社会保険料の106万円とか130万円の方です。岸田内閣で負担軽減策を実施していますが、この制度のさらなる深掘りを模索することも一考に値します。

さらに産業全体のサプライチェーンの適正化が必要です。具体的に言えば価格転嫁に最も注力しなければなりません。コストプッシュインフレに対する最大の対策は適正な価格転嫁構造の実現による構造的賃上げです。農業などは典型です。サプライチェーン全体で合理的かつ適正な価格形成が行われる必要があります。下請法改正はやり遂げなければなりません。

この点、価格転嫁の最終需要者か政府である事業者、すなわち医療・介護・保育・土木などですが、調達価格・公定価格は物価スライドを導入すべきです。民間に価格転嫁を強要するのであれば、政府自らも価格転嫁に応じなければ理屈は立ちません。

翻って需要サイドの話で締め括ります。一番分かりやすい例はガソリン価格高騰対策です。年間数兆円を費やしてでも、国民生活を守る意義は極めて高いと言えますが、未来永劫続けるわけにはいきません。実は日本よりもインフレ率が遥かに高い欧米諸国では、日本同様にガソリン価格高騰対策は実施していましたが、イギリスを除くG7主要国は既に予定通り終了しています。本来、燃油高騰は価格転嫁構造を通じて吸収されるべきものです。政府が過剰に介入すると価格転嫁インセンティブを減退させることを通じて産業構造は歪み、成長を阻害します。背に腹は代えられないため、歪みに目を当てながら実施すべきです。