
国家インテリジェンス戦略本部の政策提言第二弾について
8月5日、私たちが務める党の国家インテリジェンス戦略本部(小林鷹之本部長・塩崎彰久事務局長)が、政府に対するインテリジェンス体制強化に向けた政策提言の第二弾を取りまとめました。すでに報道でご存じかもしれませんが、今回はその内容と背景について、できるだけ分かりやすく説明したいと思います。
素晴らしいチームワークで実現した提言
まず、人物紹介をさせてください。
塩崎事務局長は、アジアを代表する法務誌から「アジア最優秀弁護士(コンプライアンス部門)」に選出された経歴を持つ人物です。ただし、会って話すと、その経歴からは想像もできないほど明るく親しみやすい代議士です。政策立案では、この法律知識と柔軟な思考が大いに役立ちました。
根本拓事務局次長は国際弁護士で、OECDなどの国際機関での勤務経験があります。にもかかわらず、地声は大きく、明るく活発で、何より紳士的な代議士です。彼の国際経験が、各国の事例を政策に反映させるうえで欠かせないものとなりました。
高見康裕事務局次長の経歴は実に異色です。東大からメディア、海上自衛隊、県議という多彩な経歴を持っています。その多様な経験から、何事にもバランス感覚に優れた視点で提言に臨みました。
この三人が中心となって、小林本部長の方針決定の下で政策を練り上げていったプロセスは、本当に見事なものでした。
三段階の政策立案戦略
私たちは、インテリジェンス体制の強化を三段階で進める計画を立てています。
• 第一弾(3月発出):インテリジェンス推進体制の構築
• 第二弾(今回):必要な基本的機能の整備
• 第三弾(年末以降):発展的機能の構想
第三弾の発出は、国家安保戦略の改定、国家情報戦略の発表、有識者会議の答申を経た後になる予定です。もちろん、情勢の変化に応じて、随時、機動的に提言を発出することもあります。
「明るいインテリジェンス」とは何か
提言には明記していませんが、今回の政策の中心的コンセプトは「明るいインテリジェンス」です。
「インテリジェンス」と聞くと、多くの人は、秘密情報の収集活動を思い浮かべるでしょう。確かに、そうした活動は重要です。しかし、現在の時代は「データ飽和環境」です。情報量は膨大に増えています。今、求められるのは『膨大な情報の中から、何が重要か、どう活かすかを見極める力』です。
そのためには、秘密にばかり頼るのではなく、活動の外縁(がいえん)を『できるだけ公開』し、『国民の理解と信頼を得る』ことが極めて重要になります。
これが『明るいインテリジェンス』の考え方です。透明性を確保しながら、国家の安全保障に必要な情報活動を進める。そうした姿勢が、今の時代には不可欠なのです。
なぜ今、インテリジェンス体制の強化が必要か
世界各国の情報活動が、ここ数年で急速に活発化しています。その背景には、大きく二つの要因があります。
【第一の要因】地政学ショック
ロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾周辺での軍事活動など、国際秩序の不安定化が加速しています。また、情報先進5か国の相互信頼も揺らぎ始めています。さらに、テロ組織や犯罪集団といった非国家主体の力も増しており、かつての『国家同士の対立』という構図では説明しきれない時代になりました。
【第二の要因】技術革新
AI、SNS、高性能な衛星、無人航空機(UAV)など、次々と新しい技術が登場しています。これらの技術は、情報収集の方法を根本的に変えてしまいました。
こうした変化に対応するため、アメリカをはじめとする先進国は、組織・制度・運用・技術・認知といった、あらゆる領域で『情報力』と『防諜力』(外国の工作から身を守る力)を強化する競争に乗り出しています。
特に注目すべきは、各国が防諜に関する法制度を、この数年で矢継ぎ早に改正・強化している点です。実は、日本はこの面で大きな遅れをとっています。
衝撃的な報道例:ニューヨーク・タイムズが報じた事件
先日、ニューヨーク・タイムズが極めて深刻な記事を掲載しました。それは、外国勢力による『秘密裏の工作』の実態を報じたものです。日本は現在のところ、そうした隠れた工作から身を守るための十分な法制を持っていません。
自由で開かれた日本を、こうした工作から守ることは、喫緊の課題です。同時に、同盟国や友好国からの信頼を維持するためにも、必須の課題なのです。
情報防衛力の三本柱:情報力・防諜力・監査力
私たちは、インテリジェンス体制に必要な力を、『情報力』『防諜力』『監査力』という三つの要素で整理しました。これらを総合したものを『情報防衛力』と呼びます。
① 情報力(正確な情報を集め、分析する力)
日本は情報を集める能力を持っていますが、それを専門に扱う組織は限定的でした。
情報が必要な理由は、政策判断に役立てるためです。その際、情報部門には二つの大切な役割があります。
一つ目は『単純に情報がなければ政策判断ができない』という点。
二つ目は『政策部門の判断を検証する』という点です。政策部門には、往々にして『自分の考えが正しい』と思い込む『期待バイアス』がかかりやすいものです。独立した情報部門が、別の視点から情報を集め・分析することで、この偏った見方を正すことができます。つまり、判断を二重に検証する、というわけです。
さらに、質の高い情報を集める力は、次に述べる『防諜力』に大きく影響します。相手の動きを知ることなしに、相手の工作から身を守ることはできないのです。
② 防諜力(外国の工作から身を守る力)
防諜の具体例として、アメリカで起きた衝撃的な事件があります。
【具体例】アメリカ・アーケディア市長の事件
アメリカのロサンゼルス近郊にあるアーケディア市。この市長が、実は中国の協力者(スパイ)だったことが明らかになりました。市長は、市議会での討論で、特定の企業に利益をもたらすような発言をしたり、政策判断に中国に有利な方向を導こうとしたりしていました。
こうした『影響工作』(政策判断を密かに歪める工作)は、世界中で活発化しており、決して他人事ではありません。
現在、日本にも防諜に関する法律があります。『特定秘密保護法』『重要経済安保情報保護活用法』などです。これらの法律は、国家機密を外国に売り渡そうとする行為を防ぐ効果があります。
しかし、『人的接触』『金銭授受』『広告宣伝』といった手段を使って、政策判断を歪めようとする『影響工作』に対しては、何ら防ぐ手段を持ち合わせていません。
これが、今、日本が早急に対応しなければならない問題なのです。
③ 監査力(国民の信頼を得る力)
情報先進国の情報機関の幹部が、こう述べています。『情報の分野において最も重要なものは、信頼である』と。
国民の支えなしに、情報活動は成り立ちません。だからこそ、『明るいインテリジェンス』を実現するには、『監査力』が最も重要になります。
『監査力』とは、何を目的に、何をどうやって集めて、どう使ったのかを、『外形的に示して信頼を確保する』力を意味します。
特に情報飽和の時代ですから、SNSなども含めた様々な情報を多角的に分析する必要があります。それだけに『秘密裏に情報を集める』ことより『何をしているのか、国民に説明して理解を得る』ことの方が、よほど重要になるのです。
そのため、何重にも監査を行う仕組みが必要となります。
情報防衛力を具体的に実現するには
【1】統合力:情報サイクルの確立
三つの力(情報力・防諜力・監査力)を持つだけでは足りません。何より大切なのは『情報が政策判断に日常的に使われることが当たり前になる状態』です。
これを『インテリジェンスサイクル』と呼びます。
1. 政策部門が情報部門に『こんな情報が欲しい』と要求する
2. 情報部門がそれを受けて、情報を収集・分析する
3. その結果が政策部門に届き、政策判断に活かされる
このサイクルが円滑に機能することが、情報防衛力を高める上で不可欠です。
ただし、重要な注意点があります。政策部門と情報部門には『一定の独立性』が必要です。政策部門は『期待バイアス』がかかりやすいため、情報部門が完全に支配されてしまっては、客観的な分析ができなくなります。
情報先進国(アメリカなど)は、この『バランス』をいかに取るか、という設計に長年、力を注いできた歴史があります。日本も、その知見をしっかり学び、正しく設計しなければなりません。
その際、重要なのが『情報共有基盤』と『情報共有プロトコル』(ルール)の確立です。『独立性』と『情報分断』は別物です。適切に情報を共有しながら、役割と任務における独立性を保つ。これを『ニード・トゥ・シェア原則』と呼びます。
私たちは、先日設置された『国家情報局』が、当面の間はインテリジェンス体制整備の司令塔として機能し、本格運用段階では『情報分析と監督』を主たる任務とすべきだと考えています。こうした骨格設計が整わなければ、インテリジェンスサイクルは機能しません。
【2】情報力の強化:対外情報収集体制の構築
最大の柱となるのが、対外情報収集体制の構築です。これは自民党と維新の会の合意でも注目されています。
対外情報収集は、他の組織(公安調査庁、情報分析組織、犯罪捜査機関)からの独立性が極めて重要です。そのため、独立した新しい組織として設置することを目指します。
ただし、対外情報は『外交ネットワーク』を活用する必要があるため、外務省の傘下に置くことが現実的です。
さらに、対外情報なしに電話やメール等の『通信情報』は集められません。憲法の範囲内で、通信利用のあり方を進化させることが課題です。同時に、衛星情報や公開情報も発展させる必要があります。
何より大切なのが『分析力』です。データ飽和の時代には、数ある情報の中から『本当に大事な情報』を見つけ出す力が生死を分けます。
アメリカのCIA(中央情報局)は、『10年以内にAI(人工知能)を自律的なミッションパートナーとして扱う』と宣言し、民間企業との連携に乗り出しています。日本も、こうした最先端技術を活かす必要があります。
そのために、情報共有基盤の整備と、AI活用推進をセットで進め、さらには技術開発のための基金設置も目指しています。
【3】防諜力の強化:外国工作への対抗
外国勢力が日本国内で何をしているのか、それを『透明化』することが最優先です。
情報先進国(アメリカなど)は、外国の代理人に対して『活動の事前登録制度』を整備しています。例えば、『外国のために工作を行う人間は、事前に当局に登録しなさい』というルールです。
日本も、まずはこうした事前登録制度の導入を目指します。
しかし、各国共通の経験では『事前登録制度だけでは防諜の実効性が確保できない』ということが分かっています。
より直接的な手段として『影響工作そのものを法律で禁じる』ことが必要です。具体的には、外国勢力による『人的接触』『金銭授受』『広告宣伝』といった行為を使った『影響工作』を、法律で罰することを目指します。
【4】監査力の強化:国民の信頼確保
監査力は、複数のレベルで機能する必要があります。
①国会による監視:国民に選ばれた代表である国会議員が、政府の情報活動を厳しく監視できる仕組み。
②独立機関による監査:政府から独立した組織が、政府情報にアクセスする権限を持ち、情報活動が適切に行われているかを監査できる体制。
これら複数の層による『輻輳的な監査』(複数の監視が重なり合う状態)を実現することで、初めて国民の信頼を得ることができるのです。
次のステップ:政府有識者会議での検討
上に述べた視点を含め、専門家などで構成される政府有識者会議において、今後、さらに具体的な検討がなされることを期待しています。
『自由で開かれた国を、秘密の工作から守る』『国民の理解と信頼を得ながら進める』
これが『明るいインテリジェンス』の志です。