所有者不明土地

所有者不明土地

今年の1月に土地問題について触れましたが、改めて本日、所有者不明土地問題(以下土地問題)に関する議員懇談会(会長:野田毅先生)が8時開催されました。1月に報告があったことについて、相当の進展があったので再度ふれておきたいと思います。もちろんまだまだやらなければならないことはあるのだと思いますが、ここまで党主導で政府を動かして引っ張っていただいた懇談会幹部の皆さまには敬意を表したいと思います。

参考資料:所有者不明土地問題に関する懇談会

目的は、一言でいえば、人口減少と高齢化にともなって、土地の流動化が低下し、利活用が進まなくなっておりますが、それは所有権の問題に起因するということが挙げられ、そのことを整理する必要があるということです。憲法12条には、国民の自由と権利は国民の不断の努力で保持しなければならないけれども、濫用してはならないのであって公共の福祉に服する、という趣旨のくだりがありますが、土地でいえば、所有権というものと利用そして管理の問題のバランスを現下の情勢に鑑みて、変えていかなければなりません。以下、自民党と政府の流れを追っていきたいと思います。

1.所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドラインの作成・改定(平成28年3月公表・29年3月改定)

国交省は昨年一昨年と、主に各公共団体に向けて所有者不明土地を利活用する場合にぶち当たる問題について、一定のガイドラインをまとめました。例えば、事業別状況別に、所有者の探索方法を解説し、財産管理制度や土地収用法の制度を紹介、相談窓口を設定して事例を紹介するなどです。私が地方創生特別委員会で触れた直前に公表されたもので、問題提起としての価値は大変高いものがあります。これ以降、このガイドラインでは触れえなかった本質的な改善の流れができます。

2.自民党「所有者不明土地問題」に関する議員懇談会提言(平成29年4月)

自民党の提言は、そもそも何が問題になっているのかを明らかにして、公的管理や利用の在り方を検討して、法制上の措置も検討することを求めました。更に、特だしして、農地、林地、民事法・不動産登記の連接、情報基盤の構築などの問題的を行い、政府全体として党政調に検討組織を立ち上げ、法制上の措置を含めた対応を政府とともに行うべきだとする提言をまとめました。

3.自民党政務調査会「所有者不明土地等に関する特命委員会」〜所有者不明土地問題の克服により新たな成長〜(平成29年6月)

前項の提言を受けて立ち上がった自民党の正式な組織で関係省庁や民間団体、有識者などからヒアリングを続け、より具体的な提言を行っています。第一に、利用権に着目した制度の新制度設計を求めています。日本の成長のための迅速な公共事業の推進の観点から、関係省庁が協力して、権利者保護に配慮しつつも対象事業を広くとったうえで安定的な利用を可能とすることを旨とした新制度の検討をすべきであること。農地・林地の機能向上が必要なこと。共有私道の管理等の円滑化が必要なこと。また、第二に、所有権取得に関わる既存制度の改善が必要なこと。具体的には、関係機関が連携して運用改善の在り方を検討するとともに不在者財産管理人等の申し立て権を市町村長に付与するなど財産管理制度に特例を設けること、土地収用について制度・運用を改善すべきであること、共有地の処分について同意要件の特例を設けるなどの改善をすること。第三に、肝炎する環境整備をすること。具体的には、所有権の探索をより効率的に行えるようにすること。例えば相続登記の促進を図るとか場合によっては法的措置を講ずるなどです。またマイナンバーの活用も提案されています。また、国の援助や代行制度、土地所有者の責務、実態把握、関連業団体の活用なども提案しています。

4、所有者不明私道への対応ガイドライン(平成30年1月)

以上を受けて、所有者不明私道の法的解釈に関するガイドラインを設けました。民法の共有等に関する法律の解釈が不明確であって共有私道の補修工事等を行う際に、所有者全員の同意が必要と解釈される場合があったからです。これを、同意を求める必要がある対象者のガイドラインを示しました。小さいことですが、こつこつ、です。

5、所有者不明土地等に関する特命委員会とりまとめ〜所有から利用重視へ理念の転換「土地は利用するためにある」(平成30年5月24日)

再度、特命委員会は提言をまとめました。サブタイトルにもあるように、土地は利用するためにあるわけで、所有から利用重視への理編の転換を図らなければなりません。当初から私が指摘してきたように、個人の権利を重視するあまり、社会が疲弊し、結果的にその個人の利益が棄損することは、その個人の利益も棄損するわけで、社会全体と個人個人がその気づきをもらえる社会にならなければなりません。

ちなみに、所有者不明土地面積は410万haで2040年には720万haにもなるとされています。
この提言は、すでに提出されていた「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」「農業経営基盤強化促進改正法」などの円滑な施行と、施行後の速やかな環境整備とフォローアップを打ち出しています。

また、土地収用の的確な活用と運用、登記制度の見直しと相続登記の促進、変則型登記の解消、土地所有権情報の円滑な把握のための仕組みづくり、などが提言されています。

6.所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(30年6月公布)

以上の流れで公布されたのがこの特措法です。前述のように、所有者不明土地が全体の20%になること、収容の際に不明裁決に時間がかかって公共事業が円滑に進まないこと、公共事業以外では利用が困難なこと、土地所有者の探索に多大なコストがかかること、長期間相続登記されていない土地は探索が困難な事、さらにはごみ屋敷ができても市町村は管理することが困難なこと、などに対して、知事の裁定で収用手続きにかかる時間を短縮できたり、地域福利増進事業というのを創設して公共事業以外でも最大10年利用を可能にしたり、所有者探索範囲を合理化したり、固定資産課税台帳等の公募情報を利用可能にしたり、登記官が相続人を調査して相続登記を促したり、市町村長が家庭裁判所に対して不存在財産管理人などの選任を請求可能にしたりしています。

7.事業認定申請の手引き〜事業認定の円滑化〜(平成30年6月公表)

あわせて、地方公共団体から「収用は使えない、使いづらい」という声を受けて手引きが公表され、あわせて相談窓口が各地方整備局(国交省)に設けられました。

8.登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会中間とりまとめ(平成30年6月)

さらに、登記制度の在り方について、党の提言を受けた形で研究会が立ち上がり、検討状況の公表がありました。例えば相続登記は義務化すべきか、変則型登記解消に向けて何ができるのか、登記の公開はどうすべきか、などの検討が行われています。

また、土地所有権の在り方についても、所有権と公共の福祉のバランスのあるべき姿や、放棄の是非、あるいはみなし放棄制度導入の是非、共有地の管理や財産管理制度の在り方などが検討されています。

9.農業経営基盤強化促進法(30年5月公布)・森林経営管理法(30年6月公布)

農地については、共有持ち分の過去の同意があった場合5年間だけ貸付可能であったものを、共有者が1人でも農業委員会による探索・公示手続きを経て農地バンクに20年間貸し付け可能になりました(遊休農地に限らない)。また持ち分の過半がわからない場合は貸付できなかったものを、知事裁定を経て農地バンクに20年間貸し付け可能となりました。その際の共有者の探索は一定の範囲に限定です。

森林については、所有者のすべてが不明な森林は、知事裁定を経て間伐代行が可能でしたが、一部が不明な場合でも市町村の探索を経て市町村に森林の経営管理権を設定することができるようになりました。また、所有者の一部が不明な共有林は、知事裁定を経て共有者による伐採造林が可能でしたが、所有者のすべてが不明な場合でも、市町村の探索や知事裁定を経て、市町村に森林の経営管理権を設定することが可能となりました(上限50年)。手続きに相当な時間を要するとか所有者の探索に手間がかかる問題を一部解消できたことになります。

10.所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針(30年6月1日)

併せて、同問題を重視した政府は関係閣僚会議を設置しており、課題解決のための検討を進め、工程表も公表しています。前述した課題は当然のことながら、2020年をめどに民事基本法制の見直しと併せて土地基本法等の見直し、更には国土調査促進特別措置法の改正、登記簿と戸籍の連携のための制度整備なども謳われています。