介護施設に勤務する方からメッセージを頂きました。コロナ禍前からの人不足に加え、労働環境は厳しく、疲弊しているとのこと。介護現場の労働環境の改善に向けて努力して参りたいと思います。直ちには、既に流れはできていますがコロナ対応助成事業の拡充、そして賃金(介護報酬)。加えて、テクノロジー利活用による労力軽減、そして究極的に言えば人材。ただ、構造的な問題に切り込まなければ本質的な解決にはなりません。
人口減少問題を消滅可能性都市としてセンセーショナルに世に問うた増田寛也さんが、以前、東京に住むご年配層の地方移住について提言したところ、地方自治体から大きな反対の声があがったことがあります。その理由は、ご年配層の介護医療サービスに関わる負担を地方に押し付けるな、というもの。
介護現場の方々にとっても、担い手が少ないなかで、これ以上利用者であるご年配層が増えていけば、益々疲弊するのではないか、と思うのだと思います。しかし私は、この増田さんの考えは構造的には正しいと思っていました。簡単に言えば、地方移住を進めれば、地方の負担も下がるのではないか、というものです。その理由は何か。
東京は高齢者人口が激増しています。東京は若者の街のイメージがありますが、そもそも人口規模が大きく、当然ご年配層の人数も多い。それに加えて、若年層が毎年東京に流入しそのまま東京に住み着くため、ご年配層は年々益々増え、というか爆増しています。すなわち、既に介護リソースは限界に達しており、新しい施設が所狭しとひしめき合っています。しかし、そのコストは誰が払うのか。利用者もさることながら、税金も投じることになります。
国費であれば東京と何の関係もない地方在住者も払うことになります。国から見れば、東京に施設を新造しご年配を受け入れる場合よりも地方に受け入れる方が遥かに負担は少なくなります。すなわち国民の負担が減るはずです。そして地方から見れば、ご年配層を受け入れるよりも、多くの負担を地方に関係ない東京の新造介護施設に払うことになるのだと思います。ここは、まだデータを確認していませんので、いずれか推計してご報告したいと思います。
ついでに言えば、雇用面の利点もあります。介護事業を行うには若手の担い手が必須です。東京ばかりに介護施設が新造されると、担い手である若者は地方から吸い上げられます。逆に、地方に高齢者が増えると、それに伴って介護事業者の雇用が増えます。また、さらについでですが、消費面の利点もあります。単純に地方移住が進むと地方の人口は増え消費は拡大します。その消費は新たな雇用を生みます。介護事業者のサプライチェーン(というとドライに聞こえるかもしれませんが)が豊かになります。
もちろんご年配層の地方移住促進こそが地方創生だなどと言うつもりは毛頭ありません。本質的には若者の地方移住促進こそが地方創生の主要な政策です。また、東京在住のご年配層に無理やり地方に移住しろという話でもありません。個人の意思が前提です。しかし、どの世代でも東京在住の人の半数は地方移住を望んでいます。ではなぜ望むのに移住しないのかというと、雇用、移動、社会の3つの課題に直面するからです。そのため、政府や地方でそれらの指標化を行って、改善の目標を立て、達成に向けて様々な事業を実施しています。
コロナ禍で地方移住が人気を集めていることはご存じのとおりです。豊かな第二の人生を送る環境という意味で、豊かな地方の介護事業を作っていくことは必要だと思っています。そしてそこには温かさを求めたい。
もちろん既存の地域包括ケアという考え方は本筋として捉えた上での話です。単に施設を作ればいいとか在宅ケアを推進すればいいということではなく、担い手を補助する温かい担い手が第二の職として元気で活躍できる環境、利用者が知人と集い、生きがいを持ってそれぞれが仲間で共に何かに取り組め、支えあえる環境を作っていきたいと思っています。
その為には、介護事業が他の事業者と協業し新しい価値を作ることが必要です。農福連携という方向もあるでしょう。香川県は農福連携分野では全国に先駆けた取り組みを行っています。保育所との連携もあるでしょう。介護保育農業の連携事業を行って成功している事例もあります。あるいは全く異なる分野の事業者との連携もあるかもしれません。その為には多少の保険制度や規制の改正も必要な場合も出てきますが、国としてそうした事業を育成すべく助成事業を拡充すべきです。しかし補助金だけを出し続ける事業は、ほとんどの場合、持続しません。ではどうするのか。
少し難しい話になりますが、持続可能社会とかSDGsという言葉がちまたにあふれています。素晴らしいことですが、重要なことはマネーフローを生むことです。実際に、持続可能社会に資する事業に出資したいと考える事業者なりファンドなりがかなり増えてきました。社会を良くしたいということがもちろん主だった理由だと思いたいですが、持続可能な事業を行わなければ出資を受けられない事業者が増えつつあり、その為に仕方がなく持続可能社会に資する事業を行う必要がでてきたということが背景にあって、新たなマネーフローを生んでいるとも言えます。すなわち、例えば農福商連携などに対する資金環境も今後ますます良くなっていくものと思います。
ではどのような事業がそうした出資対象になりうるのか。細かい話になりますが、そうしたSDGs事業の活動内容の投資家に向けた開示ルールの標準化が必要になるのだと思います。だんだん難しい話になってきて恐縮ですが、投資家にとって良いSDGs活動をやっている事業者に投資したいと思う一方、SDGs事業は多様なため、評価が難しい。
先日、SusLabというSDGsの標準化というか物差しを作ろうと取り組んでいらっしゃる若いベンチャー企業家と意見交換をしました。とても素晴らしい取り組みです。こうした取り組みが進むことで、社会がより豊かになるのだと思います。我々は、こうした事業者が活躍できる環境を作っていきたいと思います。