議員定数の削減

ご存じの通り、自民と維新は、連立の条件の一つとして、議員定数を1割削減することで合意しました。現在465人ですから、46程度ということになります。そして、先日、自維実務者間で方向感を共有しました。(申し遅れましたが、私は加藤勝信政治制度改革本部長、井上信治幹事長代理とともに3人で与党当該WGメンバーを務めています。)

方向感の共有というと、一見呑気に聞こえるかもしれませんが、削減に賛成の立場だとしても、一言で削減すると言っても、選挙区(289)なのか比例区(176)なのか、それとも両方なのか、それぞれに深刻な問題を抱えていて、それほど簡単な問題ではないからです。比例区だと少数政党が怒り、小選挙区だと地方と1票の格差論者が怒る。

現行小選挙区比例代表並立制というのは、集約と反映、とよく言われます。小選挙区は1票でも勝てば勝ちになるので、意見集約されるけれども、それだけでは負けた方の意見が国政に反映されないので、比例代表制で少数意見も国政に反映させる意図から、現行の制度ができました。バランスをとったということです。

ただ小選挙区は、投票価値の平等、すなわち1票の格差問題が重んじられるので、人口減少が続けば、どうしても各県において文化的歴史的な連続性を無視せざるを得なくなり、地方に負担がかかるとされています。その上さらに削減となると、さらに地方に過大な負担となります。

一方で比例区においては、反映がされにくくなるので、少数政党に負担がかかるとされます。過度な多党制を抑制するためには効果的かもしれませんが、穏健な多党制とするためには、過度に削減することはできません。

こうした背景で、削減するなら選挙制度自体を変更する必要があるのではないか、との極めて真っ当な指摘があり、今回の方向感の共有は、1年以内(年区切りの場合の任期中改正完了の必要条件)にあるべき選挙制度を議論した上で結論を出し、その結果として定数も削減しようということが、本質的な私の理解です。

ではなぜ削減なのか。維新は身を切る改革に力点を置いています。そうした考え方もあるでしょう。私自身はそもそも日本の人口が10年後にはピークから10%程度減少が見込まれるので、先を見越した改正目標であるとも思えます。加えて言えば、古代のローマにおける元老院議員定数削減を思い起こしてしまいます。

古代ローマは元老院100人からスタートしていますが、段階的に増員され、カエサルの改革によって900人まで拡大しています。カエサルが元老院を増員したのは、自らに近い属州選出の元老院議員を増やすことで元老院の質を低下させ形骸化させたと言われています。そこでアウグストゥスは、元老院の権威回復と質の向上を狙って削減したと言われています。

もちろんアウグストゥスにも別の政治的意図があったようですが、いずれにせよ、今回の改正が信頼回復に繋がるような改正にしなければならないのだと思います。なお、減らしても質の低い議員しか残らないのではないか、とのコメントをネットで散見しますが、どのような選挙制度にしたところで、あくまで議員は国民が選挙を通じて選ぶものですから、的を射た指摘とは思えません。また、いわゆる比例復活への批判ですが、新しい選挙制度の議論では、そもそも復活と言う制度が無くなるかもしれませんし、残ったとしても改善に向けた議論に繋がるのではないかと思います。

(参考)衆議院選挙制度に関する協議会で東京大学政治学部の谷口将紀先生の、日本のあるべき選挙制度について、ご意見をうかがう機会がありました。その際の私のメモを参考までに付しておきます。

  • 二院制の下での各院の役割を改めて確認したうえで、議員定数や選挙制度は議論すべきではないか。
  • 衆議院は「代表制民主政治の府」「投票価値の平等」「政権交代可能な政党政治」を志向、参議院は「先進的民主政治の府」「行政監視・監査の役割」「長期的視点」「地方の声・ジェンダー平等」を志向するべきではないか。
  • 議員定数削減については、身を切る改革という意味では、これまでは地方の身を切ってきたことに等しいのではないか。(比例区削減は「少数政党負担増大(民意反映)」、小選挙区削減は「過疎県負担増大(投票価値平等)」に課題)
  • 小選挙区制度にせよ、中選挙区制度にせよ、現下の人口減少傾向が続く限り、憲法改正を行わないと投票価値の平等を維持するのはそもそも困難ではないか。
  • 現行小選挙区比例区並立制の諸課題を認識し、引き続き政治に金のかからない選挙制度、投票価値の平等が引き起こす区割り変更について安定的な運用が可能な選挙制度、民意を適切に反映(分極的多党制ではなく穏健的多党制)が可能な選挙制度を志向して、現行制度の修正(過疎県定数歯止め規定、復活当選制限、優先順位付投票)か、もしくは中選挙区的な選挙制度(都道府県単位の比例代表制)に移行すること等もありうるのではないか。

(写真は井上信治代議士のFBページから借用)