(写真出典:ロッキードマーチン社)
イージスアショア(日本を狙う弾道ミサイルを迎撃するシステム)について今日は触れて見たいと思います。TBS/JNNの世論調査の結果を見ると、約1年前(29年9月)と最近(30年8月)で、導入に賛成が6割強→3割強、反対が2割強→5割弱、分からないが2割弱→2割という結果になっています。
一方で北朝鮮の動向については、非常に不安を感じるが57%→43%、多少は不安を感じるが33%→43%、両者(非常+多少)を合わせると90%→86%。つまり不安であることは変わらないけど、差し迫った不安は劇的に低下したということだと思います。南北会談で更に顕著になっている可能性もあります。
端的に言えば、まぁ撃ってきそうもなくなりつつあるのに、まだイージスアショアなんて高いもの買うなんて、どうせトランプ大統領を忖度してるんじゃないの、と思う方が増えたのだと思います。実際どうなのか。
イージスアショアは高いのか?
まず費用から始めたいと思います。問題を一旦単純化して北朝鮮は忘れて頂き、どこから何が撃たれても日本を守る装置を導入するのに、一体幾らまで出せるかという問題を考えます。値段は2台で2千6百億円以上という相当高価なものです。
個人で1日に幾ら出すか。1日1000円だったら?高いですよね。1か月で3万ですから携帯より遥かに高い。私なら多分買わない。100円?ん~微妙ですね。でも一年で3万6千円。私なら迷うところです。10円なら?買うと思います。1日1円なら?私なら絶対買う。
イージスアショアは30年くらい運用することが想定されています。だとすれば、ざっくり1年で100億弱。例えは良くないかもしれませんが、農政の鳥獣被害対策や経営安定対策の予算と同額程度です。そして、国民一人当たりの負担は年間100円しません。つまり1日1円もしない。運用整備費はこれに入っていませんが、もし入ったとしても年間負担はどんなに高くても1日1円は絶対にしない。この価格で、日本に落ちてくる物体を払いのける能力を持たない手はありません。
一方で、イージスアショアでなくて今持っているイージス艦で守れるか?守れます。が他の守りができません。当たり前ですがイージス艦は弾道ミサイルのためだけにもっているわけではない。その他の任務ができなくていいなら、そもそもイージス艦など買わなかったはずで、そんなことは全然ない。ですから、イージス艦で対処するならば、別途イージス艦が必要になります。できれば4隻(ローテーション)。1隻2千億として8千億。それに運用費用がかかるとしたら1兆円は大きく超えます(船の運用整備費は一般に地上アセットより高い)。そして実際にはお金だけでなく運用人員の確保は困難でしょう。だから結論としては、選択の余地なしということになる。
また、地上システムでもTHAAD(迎撃ミサイルシステム)ならどうなの、と聞かれたこともありますが、結論としてはTHAADの方がイージスアショアより高い。
イージスアショアの導入をなぜ急ぐのか?
単純に空白期間をなるべくなくしたいからです。配備時期について触れますと、導入を決めて1日で配備できるなら導入計画中断という余地もありますが、決めてから5~6年かかるので、導入するならなるべく早く導入すべきです。そしてイージス艦に運用の自由度を持たせるべきです。もし仮に将来、金正恩が改心して国際社会の声を100%スルっと受け入れたとしたとしても、実効性のある方法で(後述のCVID)なければ、導入中断をすべきではないのは、能力上と外交上の双方の戦術上の話だけではなく戦略上の理由があるからです。さらに言えば、我々が言っている安保環境の厳しさというのは一般論にも適用される話なので、我が国を守る装備品としては全く無駄になることはありません。
また自国で作れないのかというご指摘もありますが、恐らくより高額になり、5年では配備できないはずです。もちろん、だからそれでいいのだということにはならないわけで、本来であれば万策を尽くす努力をする必要はあると思いますが、これはむしろ産業政策の話になるので、別の機会に譲りたいと思います。
北朝鮮はまだ脅威なのか?
そもそもイージスアショアってまだ要るの、を見ていきたいと思います。まず、世論調査の結果が変わった背景として、この1年で何が変わったかというと、①(軍事挑発)北朝鮮が実際にミサイルを撃ってこなくなった、②(米朝交渉)米朝会談以降、軍事的緊張から外交交渉モードに変わった、③(イージスアショア費用)概算が明らかになった、の3つです。
そして、全く変わっていないことは、㋐(意思)北朝鮮は撃とうと思えば撃てるという意思の問題と、㋑(能力)北朝鮮は現時点でも核やミサイルと言った大量破壊兵器を保有しているという能力の問題があります。
②の米朝交渉は、㋒(CVID)その意思と能力の放棄完了が確認できないと経済制裁停止も無ければ経済支援もないという国際社会の意思と、㋓(段階放棄)その意思と能力を段階的に放棄する代わりに段階的に経済制裁停止と経済支援をしてほしいという北朝鮮の思惑を話し合う場ですが、㋓の段階放棄では歴史の繰り返しなので国際社会は許容するはずもなく、㋒のCVIDを北朝鮮が飲むしかない。飲んでくれるのが一番いい。でもそうならなければ、結論としては交渉は進展せず、②米朝交渉は長期に及ぶか決裂する。長期化しようが決裂しようが㋐意思と㋑能力は残るので①軍事挑発の不安は解消されない、ということになります。
因みに38ノースというシンクタンクが時々分析結果を公表していますが、それによると東倉里ミサイル施設の一部を解体したとか、豊渓里核実験場の坑道を閉鎖したということが言われています。また南北会談で東倉里ミサイル施設や寧辺核施設の放棄が約束されたとの報道もあります。一つ一つは良い兆候で大いに歓迎すべきです。しかし、これは上記㋓の段階放棄であって、㋒のCVIDとはなりません。一例を言えば、去年9月に襟裳岬上空を通過した際に使われたと報道されている順安ミサイル施設はどうなる、とか、これまで作った弾道ミサイルはどこ、とか・・・。1991年の朝鮮半島非核化共同宣言には、南北とも核再処理施設とウラン濃縮施設は保有しない、とあります。1994年の米朝合意枠組みには、北朝鮮は上記宣言の履行に向けた取り組みを一貫して行う、とあります。簡単に乗れないことはご理解いただけると思います。
合理的判断と価値基準の設定は重要
昔、インフラは無駄だ、ダムは無駄だ、コンクリートから人へ、などと中長期的視点に欠け、老朽化対策も講じない時代がありました。大災害なんてないよ、と。こうなったのも、その前の時代に経済対策の美名のもとに不要不急の事業をし続けてインフラ無駄遣い論が蔓延したツケでもありますが、いずれにせよ結果的に整備に遅れが生じ、災害による被害は発生しています。ため池決壊による被害も、農村整備事業予算のほとんどが個別所得補償に消えていったからとも言えなくはない。
寺田寅彦は、災害は恐れすぎてもいけないが、恐れ無さ過ぎてもいけない、という言葉を残しています。中長期視点で起こり得ることを想定し、合理的判断で価値判断基準を設定すべきです。これは安保にも当てはまる。例えば費用。イージスアショアが10兆円と言われたら、私は明確に、それは国力に合っていないと断言できます。あるいは技術的精度。当たるのか当たらないのかという指摘をされる方がいらっしゃいます。相当な確度であたります。が、そういう問題ではなくて、財政などの多くの制約のなかで、万全をどれだけ期すかを合理的に判断していく、というのが我々政治に与えられた使命なのだと思います。
一番重要なこと。
ただ、最後に、これが一番重要なのですが、配備は必要だとしても、配備するには配備地を決めないといけない。配備されることになれば、そこのご地元の皆さんがどう感じられるのかを中心に考えなければならないのだと思います。ご地元の皆様のご理解を得られるよう努力して参りたいと思います。