立憲民主党の枝野幸男代表による内閣不信任決議案の趣旨説明の内容が結構話題になっています。政策としての方向性の問題。立憲は旧民主から一貫して自民党の経済政策をトリクルダウン(会社が豊かになれば人が豊かになり社会が豊かになる)だと断罪し、人が豊かになれば社会が豊かになる、つまり、政府が個人に給付すれば、国民所得が増えるので消費が増え、会社も元気になるから社会も元気になると。
耳障りは良いのですが、森の中で一本の木を見るだけで政治が務まるなら、枝野代表は社会主義だ、と断罪すれば事足ります。しかし、我々はトリクルダウンを採用したこともないですし、社会保障をないがしろにしたこともない。現実の政策構成をご覧いただければ分かるのですが、両方の要素のバランスをとろうと努めています(このバランスが適正かどうかは別問題)。同期で経済政策に最も明るい(性格も)ナイスガイの小倉まさのぶ代議士も、自らのSNS記事の後半で、枝野代表の演説内容は、昔コンクリートから人へが間違いだと気づきコンクリートも人もになったことを想起させるとしています。
http://www.facebook.com/masanobu.ogura.9
そもそも既に30年前にこの手の論争に結論は出されていますし、国民はそうした無益な言い争いを見たいわけではないはずです。
そしてこの問題は、究極的に言えばどうやって再配分するのか、に行きつきます。財政をかけて中間層を厚くする方向はアメリカでも同じですし(というかもっと極端)、実は中国もそのことを意識しています(4億人の中間層)。もはや世界的潮流とも言えます。国力とは中間層の厚さであるとも言えます。そして中間層が厚くないと国力は豊かになりません。問題は、どうやって、というところです。
小倉代議士のページに、小黒一正法政大教授の論説が紹介されていますが、小黒教授は、再配分構造の日豪比較を通じて、日本の社会保障給付の非効率さを指摘しています。つまり、必要とする人に必要なだけ適切に効率よく給付できていない。
http://www.kazumasaoguro.com/20210528Nikkei.pdf
教授曰く、政府による家計への給付のうち低所得者層向けの割合は豪州41.5%、日本15.9%。家計の負担(税+保険)のうち低所得者層の割合は豪州0.8%、日本6%だそうです。単純に鵜呑みにすべきではありませんが、この推計が正しければ、財源が仮に1兆円あったら、豪州の場合は4150億円が低所得者層に向かうが、日本の場合は1590億円しか行かず、また、家計が払う税金や保険は、豪州の場合は低所得者層から80億円徴収しているのに対して、日本は600億円も徴収していることになります。日豪比較でみると、公平さが歪んでいるように見えます。
では、なぜこうなるのかというと、ちゃんと所得を補足できていないから。では、なぜ補足できていないかというと、反対が多いからということになります。英国や豪州では、公正な社会の実現のため、リアルタイムで所得の補足ができるシステムを運用しているのだとか。日本では国民の意識的な抵抗感も相まってデジタル化が進んでおらず、補足もできないから、公正な再配分に至らない。
もちろんこれだけではありませんが、大きな要素であることは間違いないと思っています。
因みに、枝野代表の演説が話題になっている理由は他にもあったりします。例えば、「税率5%への時限的な消費税減税を目指す」としながら「公約ではない」と明言したとか、その減税対象は影響を強く受けるところだとしているので対象範囲の限定は困難ではないか、とか、5%の支援であれば直接給付の方が政策効果は高いのではないか、などです。全否定はしませんが、アジ演説にしか見えないので、そもそも真面目に議論する必要もないかもしれません。、