「密約に想う」に想う

密約の存在が明らかにされました。

非核三原則について、過去の政権が野党からの質問に、「事前協議がなかったということは核の持ち込みもなかったということだ」というロジックで答弁していましたが、過去の政府は屁理屈大魔王ではあります。

しかし、塩野七生さんが文藝春秋上の「密約に想う」で述べられているように、敗戦国で経済復興が主是であった日本が、生き延びて(沖縄返還、日米安保、平和享受、経済成長)これたのは、密約も大きな要因であろうと思います。

その上で、「だとしても、ずっと秘密にしてきたとは、過去の為政者は国民騙しも甚だしい」という意見と、「今更公開して何をするんだ。公開して鬼の首を取ったかのように喜ぶのは子供じみている」という2つの主だった一般の意見を対象に、密約公開について、2つの意見を述べたいと思います。

1.~公開のプロセスと条件を議論せよ~

外交秘密文書の秘密指定解除の指針は実はちゃんと文書化されております。が、今回のような重要な過去の外交機密文書についてはその範疇になく、従ってこうした類の文書の公開を、プロセスや条件を明快にしないまま、まして議論もしないまま、公開するのは大きな問題であると感じます。例えば、何でも交渉は秘密から始まります。商売でも、数量・価格交渉直後に、「相手はこう言ってきた」などということを公にしたら、信頼を損ないます。仮に今回の公開で、今後の外交交渉において、海外から「お~日本はなんだか分からないまま交渉内容を公にするんだったら、危なくて交渉なんかできないな」となってしまっていることも考えられます。今後の外交交渉に大きな悪影響を及ぼすということです。

いきなり公開するのは、野党時代からの主張について「ほらみろ」と言いたいだけのことで、外交を政争の具にしています。まずは、公開のプロセスと条件を十分に議論した上で、明快な指針のもとに機密文書の運用をしなければならないと感じます。さらに外交にほんの僅かとはいえ携わった経験から言えば、そうしたプロセスや条件を策定する際は、外交当事者が交渉にあたって萎縮しないよう十分に配慮すべきです。

2.~密約公開が及ぼす影響を精査せよ~

機密文書公開の運用方法が確立されたら、今後の外交機密文書については問題なくなりますが、過去の公開については問題がのこります。過去の外交機密文書は公開を前提にしていないので、公開されたときの影響は全く精査されていないはずです。

従って、一般論としてのプロセスや条件はそのまま適用するとしても、個別具体的に密約1つ1つを精査する必要がでてきます。今回の密約公開は、現在の対米関係にどのような影響を及ぼすのか十分に検討された形跡は見当たりません。

以上の2つを述べた上で、改めて先ほどの2つの主だった意見について申し上げたいと思います。

塩野さんは、密約に想うのなかで、一国のリーダーたるもの、自分が悪魔に魂を売ってでも国民が天国に行けるように努力するくらいの気概が欲しいという趣旨のことを述べてらっしゃいますが、果たして過去の為政者がその気概をもって密約を交わしたのかどうかは、現在では知るすべもありません。森田一先生が大平正芳先生の秘書官であったとき、大平先生が「introductionと呟いて悩んでいた」ということを述べられてらっしゃいますが、私は時の為政者は気概があったのだろうと思います。だとすれば、同じ日本人としては「国民騙し」と非難する気にはなれません。一方で、子供じみているか、については、現職外務大臣が上記の2つの観点を十分に考慮していれば、子供じみた方針ではなかったのにな、とただただ残念でなりません。

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