北極海航路とロシアの戦略

北方領土もシーレーンも北極海航路を視野にいれるべし

先日、海事関係の知人から頂いた資料に目を通していたところ、少し旧聞に属しますが、2009年9月11日、米国ニューヨークタイムズ紙の科学面に北極海航路の記事が掲載されていたのを思い出しました。同紙曰く、欧州からスエズ運河を通って話題のソマリア沖やマラッカ海峡を通ってアジアを結ぶ旧来のシーレーンが約12894マイル。それに比べて北極海を通れば8452マイルで済むと。同様に上海まで12107マイルに比べて8297マイル。ついでに言えば、欧州からパナマ運河を通ってカナダ・バンクーバまでが10262マイルに対して8038マイル。いずれにせよ、アジア圏の場合、4割もの航路短縮が可能という記事です。

スエズ=マラッカ航路の場合、何度も触れているように海賊リスクがある。一方で、北海近辺には、世界の未確認資源量の25%(サウジの埋蔵量の4割)というエネルギー資源がある。それに、今後のアジア市場の成長を考えれば、ええやんか、となるのが世の常です。

ロシアは冷戦期間中までは北極海航路を積極的に開発していました。昨年「ウラジ・ボストーク(東方征服)」と題した記事でも触れましたが、軍事的に見ればロシアとしては他国の干渉を受けずに太平洋にでるルートを確保しておいたほうが有利だからです。例えば日露戦争の際に秋山真之が戦った世界最強のバルチック艦隊は、スエズ=マラッカよりも遠い喜望峰回帰ルートを使っていますが、ほとんど移動だけで兵士の士気は落ちていたとされています。

ところが冷戦後はすっかり開発を止めていました。必要なくなったからですが、ところが、私がこの記事を書いた半年後の2011年9月に、プーチン首相(当事)は、北極海航路をスエズルートに比肩する世界の大動脈に発展させる方針を示し、開発を指示しています。

背景には地球温暖化の影響で北極の解氷が薄く小さくなっていることで、航行可能期間が増えたことで、ローコストで実現できる見込みが徐々に高まってきたからです。

問題は、砕氷商用船の技術が少ない、利用できる港湾が少ない上、整備がされていないこと、行政実務上ロシア政府とちゃんとした交渉がまとまっていないこと、などです。

しかしここ最近になって北極海航路関係のガイドラインが発表されるなど議論が活発になっているようです。

そう考えると、北方領土4島はロシアにとって、少しは意味のある島に思えます。先の「ウラジ・ボストーク」では、ロシアにとっても実質的な商用的な利用価値は少ないのではないかと指摘しましたが、少し考え直さざるをえないのかもしれません。

そして、エネルギーや商用貿易なども、旧来のシーレーンのみならずこうした北極海航路も視野に入れて考えるべきです。