改正の基本的な考えは、生前贈与を推奨するとともに贈与時期に関して中立な税制を目指したものです。
相続税なんて俺は関係ない、と思われる方のために、関係あるということを少しだけ説明させていただきます。
日本の金融資産は2000兆円ともいわれていますが、その7割は65才以上の日本人が保有しています。更に、負債を併せたネット資産であれば9割以上が65才以上のご年配層の方が保有しています。
もちろん全てのご年配層がお金持ちと言うわけではありません。あくまで総額の話です。そもそもご年配層の消費はGDPの35%も占めると言われています。一方で、若年層は負債(家や車の借金返済)のために働き詰めになっているという傾向があります。
つまり、大まかなことで言えば、ご年配層の資産を早めに若年層に移転できれば、若者層の生活的にも経済的にもプラスになることになります。
生前贈与のススメはこうした背景から推進されているのですが、今までの贈与税制度は、早く贈与してしまえば税金対策として得、というところがありました。正確に言えば、死亡時から遡って3年間だけ生前贈与額が相続財産に加算されていました。(これを暦年課税制度と言います。)
例えば、贈与税の基礎控除が110万円なので毎年110万円だけ子供たちに贈与する人も多くいらっしゃいますが、この場合は、亡くなる直近3年だけが相続財産として申告義務を課されていました。従って、早く贈与を開始すれば得ということになります。
この制度であればなるべく早く生前贈与しようと思う人が多くなって良いのではないか、と思われる方も多いかもしれませんが、実はそういう方のために、これまでも相続時精算課税制度というのがあって、いつ何時贈与しても2500万円以内なら非課税の控除枠が設定されていました。これなら、相続時には相続税がかかりますが贈与時には贈与税はかかりません。
ただ、結局、この相続時精算課税制度を利用する場合、相続税もかかるし少額でも記録を残しておかなければいけなかったので、利用者が殆どいなかったというのが現状でした。
今回の改正案では、相続時精算課税制度を利用する場合、年間110万円までは申告不要で贈与税も相続税も非課税となることになりました。
ただ一方で、本則の暦年課税制度は、相続財産加算期間が3年から7年に延長されることになりました。え?なんで?と思われたかもしれませんが、実は国際比較すると、アメリカは全期間が加算対象ですし、ドイツやフランスなども10年とか15年の期間となっています。
つまり、3年だと生前相続の時期で不公平感があったりました。誰も人生の終わりをいつ迎えるかは分かりませんし、相続開始の時期によっても税金が変わるのも妙な話です。ただ、7年もの間、こまごまとした資料を残すのも面倒な話なので、無くなる4年前から7年前の4年間は、100万円までなら非課税として控除できる制度となりました。
まとめると、暦年課税制度は相続財産加算期間が3年から7年に延長、過去4年前から7年前の4年間の期間の100万円までの贈与が非課税となり、一方で相続時精算課税制度は従来通りの2500万円までの控除に加えて、年間110万円までの相続税及び贈与税の非課税控除枠が新設される案となりました。
以上が説明ですが、個人的に言えば、少し煩雑。もっと簡単にならんものかと思いますが、公平中立と経済活性の両面で現時点では方向性としては正しい方向であると理解しています。