ロシアのウクライナ侵略から1年

本日、2月24日をもって、ロシアがウクライナへの侵略を開始してから丁度1年となりました。改めて、ロシアに対しては強い抗議と非難を表明し、また侵略の被害に遭われた方々には心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。

■国連決議と日本の役割

今日、国連総会では、丁度1年となるのに合わせて緊急特別会合が開かれ、ロシア軍の即時撤退とウクライナでの永続的な平和などを求める決議案が採択されました。賛成141か国、反対7か国(ロシア、ベラルーシ、ソマリア、リビア、スーダン、マリ、シリア)、棄権と無投票で45か国でした。

緊急特別会合に出席した林芳正外務大臣の演説は、同胞であることを差っ引いても非常にインパクトのある演説でした。大臣自ら強い意気込みのもとで原稿に推敲を重ねられたのだと思います。というのも、いかに決議案の賛成国を確保できるかは我が国として大きな課題であったと認識していたからです。

先進国を中心に、ロシア非難を強めていますが、実は国際会議で多くの国から決議案の賛同を得るのはそれほど簡単な事ではありません。昨年の国連総会でのロシアの人権委除名や賠償決議などでは、賛成が90か国程度にとどまったこともありました。この場合でも、反対は10~20程度ですが棄権や無投票を加えれば100か国程度になります。単純に考えれば、それぞれの国には思惑があるということなのですが、構造的に分析すれば、欧米各国は、相当強い言葉を決議案に盛り込まなければ内政的に困難を抱えることになりますし、一方で、強い言葉を盛り込み過ぎると賛成国が増えずに結局ロシアを利することになる。こうした国際場裏の各国内政と思惑がからむ構造的な課題を乗り越えて多数の賛同を得る必要があり、そうした国際交渉の中心な役割を日本は大国として担っていることは、あまり知られていない事なのかもしれません。

分断しかねない国際社会を緻密に冷静に分析し、国際社会全体の意志をロシアに対して示す努力を、現に我が国の外交当局者は実践しているわけですが、今後は更に踏み込んで、例えば今回棄権した中国とは言わずともインドなどを、賛成に転じてもらうよう戦略を立てることが必要なのだと思います。

いずれにせよ、国連決議にあるように、ロシアには即時撤退を強く求めたいと思います。もちろん即時停戦も求めたいのですが、侵略した現状のままでの下手な停戦合意は、林大臣も演説で言われていたように不当な平和になりかねず、侵略を容認することに繋がり、更なる悲劇を生む可能性を残してしまいます。そうならないように、日本はあくまで日本らしい誠実なやり方で、国際世論を形成しながら正しい平和を実現すべく停戦に向けて外交努力を続けるべきです。

■中国とロシア

この国連決議の直前、中国の中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任の王毅前外相は、プーチン大統領、バトルシェフ国家安全保障会議書記、及びラブロフ外相と会談をしています。主任というと日本では若手がなりそうな役職に聞こえますが、中国共産党の外交政策の総責任者と言っていいと思います。会談詳細は伝わってきていませんが、国連総会決議やその後の方針などが話し合われたものと見ています。両国にとっては利益の時間軸が違えど、相互に頼みの綱なのだと理解しています。ロシアにとっては現状の国際社会の動きにどう対抗するかという文脈で短期的な利益、中国にとっては中国式現代化など自国の中長期戦略を遂行する上での中長期的な利益です。そして、国際社会にとっての大きな懸念事項は、既存の国際秩序に対する挑戦者であるこの2つの国が、今後どのような方向に向かっていくのか、ということです。

国連決議直前の会談だけを見ると、やはり利益の時間軸が短い方が鼻息が荒くなるもので、ロシアは、両国の協力が国際情勢の安定化のために極めて重要だとし、更には習近平国家主席のロシア訪問を促すような発表までしています。一方、中国側の発表では、両国関係は泰山のように安定していて、第三者を標的にすることも妨害を受けることもないものだとし、ウクライナ問題については、ロシアが対話や交渉を通じて問題を解決する意向を示していることを賞賛しています。

実はこの会談とほぼ同時期にプーチン大統領は、3年ぶりの年次教書演説を行っていて、新START停止に触れたり、特別軍事作戦(ウクライナ侵略)に対する国民の支持への感謝を語ったり、来年の選挙は厳正にやりますと言ったり、また経済は言われるほど不安定ではなくて安定していますよと語ったりしています。普通の人間でも、立場が弱くなってくると強いように見せたがるものですが、この教書演説にはロシアが弱っていることを示唆する事柄が多く語られているように見えます。実質的には国内に向けたメッセージなのだと思いますが、とても正面から受けとれる内容ではありません。

ロシアは自国の状況が一層厳しくなるなかで、中国への秋波を強めることになっていますが、中国が国際社会から厳しい目線で見られているロシアに付き合うということは、当然、国際社会から厳しい目線を受けることを覚悟の上なはずで、そう考えれば、中国の中長期の戦略を実現するために必要な判断だと考えるのが自然です。従って、中国は相当に大きな戦略遂行を見ているとしか考えられません。

いずれにせよ、我が国は日本らしい誠実な外交努力を続けていく必要があります。そしてその外交力を支える防衛力・経済力、更には情報力や技術力を着々と向上していくべきは論を俟ちません。