(Photo: Disinformationに関する国際会議にて)
今、巷で話題のDisinformation(以下DIと略します)とかFakeNewsについて触れておきたいと思います。Disinformationというのは、いわゆるフェイクニュースと同義ですが、フェイクニュースよりも広い意味で使われ、定義としては、意図的に人や組織に害を及ぼす偽情報です。
いま、世界中の民主国家で、このことが大きな課題となっています。なぜかというと、意図的に他国の国政選挙に影響を及ぼす目的で偽情報をSNSなどを通じて送り込むようなことが可能になっているからです。技術の進化によってもたらされた新たな脅威であって武力紛争のきっかけになったりします。民主主義の脆弱性をつくものとも言えます。
例えば、EUでも対策の方針が出されていますし、UNESCOのホームページには、ジャーナリズムのためのDI対策のハンドブックが取り上げられています。英語ですが、最近は簡単にWEBブラウザで翻訳を見れますので、参考までに添付しておきます。
2014年、ロシアがクリミアを併合したクリミア危機が発生しましたが、この事件はパラダイムシフトともいえる事件でした。戦争のやり方を変えた事件として歴史に刻まれるはずです。ロシアはDIを含むサイバー攻撃をウクライナのクリミア地方にしかけ、状況を有利にしたうえで作戦を実行したと言われます。
http://www.businessinsider.jp/post-34327
台湾も中国からのDI攻撃に晒されているとされています。そして外相自らも、「台湾は中国のDI作戦の最前線にいる」と表明しています。
台湾で最も有名な中国によるDIは、日本で台風災害が発生した時の関西空港の事故がベースになっています。当時、関西空港は連絡道路が寸断され、空港に大勢の旅行客が取り残されましたが、もちろん国籍に関係なく日本の当局によって救助されています。
ところが、台湾では、「中国大使館はバスを15台も派遣して中国人を救ったが、台湾事務所は対応が遅れ大勢の台湾人が避難できなかった。それを気に病んだ台湾の外交官が自殺した」「中国大使館のバスは台湾人であっても中国籍と言えば載せてもらえた」などという趣旨のDIが拡散され、台湾政府は国民から大きな非難を浴びた。そのほか、「バナナ価格が豊作で暴落し農家が大量破棄をしているが、政府はその報道を禁止した」とか、「台風被害の際に現地視察に向かった総統は、発砲準備を事前に軍に指示していた」というDIが拡散された。台湾政府が公式に発表したもので、こうしたDIのネット上のルーツは中国からのアクセスであったとし、あらゆる対策に乗り出しています。
参考:2018.10.4読売新聞「偽ニュース台湾同様」など
ただ、こうしたDIによる脅威は何も台湾だけではなく、欧州も冒頭に触れたようにロシアからのDI攻撃に敏感で、検討を重ねています。以下に各国のDIの事例や各国の対策がうまくまとめられていますので添付します。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000621621.pdf
日本はどうすればよいのか。先日、関連する国際会議に参加した際に、他のASEAN諸国からの参加者から投げかけられた言葉がいまだに胸に刺さっています。「日本は静かだからね」。しかし、日本も対岸の火事として傍観している場合ではないのだと思います。一つの理由として、日本のサイバー攻撃対処の方針のなかで、この分野(国民の意識や判断を歪めるもの)の取り組みが極めて弱いと感じるからです。具体的にデータを盗まれたり改ざんされたり、違法に機器を操作されたりする、我々が想像するサイバーアタックよりも、かなりたちが悪く、社会的なインパクトが大きいのだと思います。
まず基本的なところからですが、当たり前ですが言論の自由・報道の自由が侵されてはなりません。なので、政府による直接の規制とか事実認定とか、そういう方向の議論は望ましくないと思います。
では何ができるのか。少しだけ余談から入ります。政治が直接口をはさむ問題ではありませんが、クオリティペーパー(ちゃんとした新聞社)がちゃんとしてくれていれば問題はかなり防げるはず。日本が他国と大きく異なるのはクオリティメディアの国民からの信頼性が極めて高い(6〜70%)。米国や台湾は20%前後です。もちろん高いから良いということではないのですが、特にDI対策の分野では、クオリティメディアがちゃんとしていて信頼性が高いならば、まだまだDIに頑健な環境を維持できるはずです。
ただ、残念ながら報道の質の低下が最近著しい(裏付けの乏しい記事が多い)。これは、恐らく、インターネット普及によって財政基盤が脅かされていることも大きな原因だと思います。読者も見透かしているのか、新聞は偏向していると感じる日本人の比率は3年前に比べて30%→47%、正確だと感じる日本人の比率は39%→25%と激変している(日本新聞協会調べ)。その結果かどうか、昨年だけで200万部も発行部数が減っています。私自身このことに危機を感じます。
イギリスやオーストラリアでは、クオリティペーパは民主主義の根幹であるという認識のもと、政府として支援するべきか否かなどの議論がなされているそうです。私自身は、政府が支援すべきとは微塵も思っていません。クオリティーメディアは、新しいビジネスモデルの構築が遅いと感じています。
本題に戻りますと、基本的なDI対策に関する私のスタンスとしては、政府は余計なことをせず民間を促す、ただし安全保障は例外、というものです。その上で、第一に、オンラインプラットフォーマにDI対策として透明性と説明責任や信頼性強化などに取り組んでもらうにはどうすればいいのか、第二に、情報に接するユーザや情報を収集し加工伝搬するジャーナリズムのエンパワーをどう考えるのか、メディアリテラシー教育ももっと進めるべきではないのか、第三に、政府でもジャーナリズムでもない第三者としてのファクトチェック機関をどのように促せるのか、3点だと思います。特に第三番目は、世界各国では多くの機関が立ち上がっているのに、日本ではたった1つだそうです。国家危機的状況になった実例が多くないためかもしれません。