(写真:法案審査会場にて小林代議士と)
宇宙資源法案(※内容は最後に付します)を今臨時国会で成立させるべく、同僚代議士の小林鷹之さんと努力してまいりましたが、残念ながら諸般の事情で今国会は断念せざるを得ない状況となりました。この間、同法案の趣旨にご賛同賜り、ご協力を頂きました全ての皆さまにまずは心から厚く御礼申し上げます。来年の通常国会には必ず成立させます。
数年前より、宇宙も民間が主導する時代になっていました。民間がビジネスとして衛星を打ち上げられる時代になった、ということは、その裏側に利用する人の裾野が広がってきている、お金を払ってでも利用したい人が増えている、ということです。GPSが仮になくなっても死ぬことはない程度にお感じになる方もいらっしゃるかもしれませんが、経済は宇宙空間の利用なくしては回らないくらいの依存度になっています。
そうした中、数年前より宇宙資源のビジネスにチャレンジするベンチャーの話を耳にするようになっていました。日本でいえば、ispace社さん。世界には同様のビジネスを目指す企業が多くあります。将来月面利用が本格的になってきたとして、月面作業用に燃料がいるとしたら、地球から持っていくより月面でエネルギーを作った方が安いですよね。そう目を輝かせて党本部の会議で語っていた某社の方を未だにはっきり覚えています。
しかし、苦労して資源を採ってきても民間事業者には所有権があるのかどうか定まっていなかった。国際ルールもなかった。「実際にやろうとすると少なくとも法律がいるわな」。小林さんと話を始めたのはそのころです。最初に法制化に動き始めたのは行動力抜群の小林さんでした。丁度防衛政務官を退任して党に戻ってきた小林さん。同小委員会に宇宙法制条約WT(ワーキングチーム)を設置、座長に就任し、1年間かけて政府に法制化の提言を続けていました。私はというと、丁度小林さんと入れ替わりに防衛政務官に就任。その時まで党の宇宙総合戦略小委員会の事務局長を務めていましたが、政府入りと同時に党の職は全て剥奪され辞任。
そういう事情で、小林さんの動きを露知らず。そして私が防衛政務官を退任すると、河村建夫先生から同小委員会の親会である、宇宙海洋開発戦略特別委員会の事務局長に推され、その時にようやく小林さんの努力を知ります。そして、政府に立法化の具体的動きがないのを見て、「やっちゃいますか」という話になった。「やっちゃいますか」というのは、議員立法ということです。
国会議員が法律を作るのは当たり前に思われるかもしれませんが、議員が法律の必要性を感じたら政府に働きかけることが殆どです。ただ、政府提出になじまないものもあります。それが議員立法という政府が全く介在しない法律です。宇宙資源法も、関連する国際ルールや条約がないので、政府提案に十分馴染むわけではありません。だから議員立法の選択をしたのですが、実はこれが結構難儀。ものすごいエネルギーを必要とします。私自身、直近でいえば「ため池」の法律が議員立法でしたし、その前はイノベーション促進法などでしたが、ほとんど会期末は、地獄のような日々になります。
ただ、実は民間ビジネスという事情以外にもう1つ大きな課題が課せられていました。それはアメリカが主導する宇宙探査のプログラム「アルテミス計画(*)」です。同計画は8か国で政治合意したばかりのものですが、今後、具体的な協定交渉に移っていきます。その際、宇宙資源の法律を有するアメリカ、ルクセンブルク、UAEは交渉上有利になる。従って、政府が協定交渉する前になんとしてでも法案を通しておきたいという思いがありました。このことは、日本が国際ルール作りに主体的に参加していくということにもなります。また、同計画は人類の活動領域を本格的に月面や深宇宙に広げるものですが、当初から民間協力が主軸になっています。従って、民間にとっては参入機会であって、また対内投資促進の効果も期待できるものです。
そういう事情で、今年の2月頃から検討作業に入ります。連日、政府関係者や有識者と打ち合わせを重ね、現在の骨格ができたのが5月くらい。その間は結構な紆余曲折がありました。既存の宇宙活動法(民間が衛星を打ち上げる際の規制法)との関係をどうするか、産業促進法にするのか、業規制にするのか、衛星単位の管理法にするのか、国際関係はどう整理するのか、損害賠償責任はどうするのか、論点は無尽蔵にありました。それもそのはずで、世界で同種の法律を有するのは僅か3国(米国、ルクセンブルク、UAE)しかありませんでしたから、真っ白なキャンバスに自由に絵を描いていくようなものです。コロナ対策で時間に追われながらの作業でしたが、非常に有意義な時間であったように思います。
そのころ、丁度幸運にも超党派の宇宙協議会の事務局長を仰せつかることになりました。再度河村建夫先生からの打診でした。幸運というのはなぜかと言うと、議員立法は野党の大多数の賛成を頂かなければならないからです。そこで、この超党派宇宙協議会(宇宙基本法フォローアップ議員協議会)で、骨格ができたばかりの宇宙資源法案を議題に取り上げてもらうよう願い出たところ、直ちに実務担当者を立ち上げて頂くことになったのが6月8日のことです。早速、小林さんにもメンバーに加わってもらい、更に維新を加えて公明、立憲、国民の5会派で協議に入りました。その後、何度も協議を重ね、臨時国会が始まると、全会派が党内法案審議プロセスに入り、5会派で承認。感無量とはこのことでしたが、残念ながら、冒頭でも申し上げましたように、諸藩の事情で今国会は断念ということになりました。
来期通常国会には必ず成立させるよう努力を続けて参りたいと思います。
※宇宙資源法案
民間事業者による宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動を促進することを目的とし、宇宙資源の探査・開発を目的とする人工衛星の管理に係る許可の特例や、宇宙資源の所有権の取得など、所要の法整備を行うものです。宇宙資源として想定しているのは、水や鉱物のほか、レゴリス(天体表面の細かい粒子)です。JAXAなどが行う科学調査は対象にしていません。同法が成立すれば、事業者は政府に対して許可の申請を提出することになります。政府は同法で定められた宇宙活動法の特例に従って審査し、海外と調整し、許可を出します。この時点で、事業計画に沿った資源については所有権が与えられます。当然天体の領有権は与えられません。その際、政府は直ちに諸外国に向けて活動エリアや活動期間など必要事項を公表します。なお、当然ですが、国際協力路線は当然ですが踏襲するものですし、宇宙空間の探査や利用の自由を行使する他国の利益を不当に害するものでもありません。また、同法案によって日本が締結した条約その他の国際約束の誠実な履行を妨げるものではありません。
*アルテミス計画
興隆する民間宇宙ビジネスの活力を最大限に生かした、米国が主導する月面や最終的には火星までをも含む宇宙探査計画です。2021年から約10年に及ぶ壮大な計画となっています。名前の由来はギリシャ神話の月の女神で、アポロ計画の名前の由来となったアポロンの双子の姉妹。今年10月には参加8か国(米・日・豪・加・英・伊・LUX・UAE)で政治合意がなされました。基本的には、宇宙の平和利用やスペースデブリ(宇宙ゴミ)、国家間干渉防止を求める合意でした。国威発揚が主たる目的であったアポロ計画との決定的な違いは、宇宙が実体経済としての価値を生む領域になってきたことを踏まえたことなどです。